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愛剣の話

<野営中、夜の焚火にて・・・>


「─── アスカ、そのペーパーナイフを貸して頂けませんか?

丁度 手元にナイフが無くて・・・。」


焚火の前で何やら手紙の封を切ろうとしてた【イカレ修道女ルナティック・シスター】に そう声を掛けられたが、暫く何を指して『ペーパーナイフ』と言っているのか良く分からなかった。


「・・・もしかして、我が愛剣のことを言ってます?」


「他に何があるんですか。」


当たり前のことのように言うシスターに頭が沸騰するような感覚を覚えた私は、気が付けば『ペーパーナイフ』の剣先をシスターの首筋に当てていた。


「っ・・・!」




「─── 二度と そんな口利いてみろ?

次は最後の審判が起こるその日まで口が利けねぇようにしてやるから。」




眉間に皺を寄せて命の危機に冷や汗を垂らすシスターの様子を見て、頭に昇った血が急速に冷えていく感覚を覚えた私はシスターの首筋から剣先を離した。

そうして再び憩いの手入れタイムを再開する。


先程まで私が『ペーパーナイフ』の剣先を当てていた首筋を、シスターは複雑な表情をしながら数回撫でた。


「・・・そんなに大事なものだったのですか?」


私の態度の あまりにもな急変に驚いたらしく、シスターが警戒しながら尋ねてくる。


「えぇ、勿論。

この剣は私がまだ旅団の雑用だった頃からの愛剣なんです。

長い付き合いですし中々に気に入っていますから、もし もう一回『ペーパーナイフ』なんて言われたら本当に殺しちゃうかもしれません。」


「・・・。」


私の愛剣に対する愛情が伝わったのか、シスターが神妙な面持ちで頷く。


「─── 君がそこまで入れ込む剣とは興味深いね。

・・・少し見せて貰っても良いかい?」


端で読書をしていたはずの【歩く災害(ルイン・ウォーカー)】が、そのトレードマークである魔女帽を持ち上げて尋ねてくる。


「え~・・・いいですよ?」


『ペーパーナイフ』呼ばわりされるならともかく、誰かに愛剣を見せるのは嫌いじゃない。

さぁ、我が愛剣の艶やかな剣身を見よ。


「ふむ・・・黒い剣身か。

見たところメッキではないようだが・・・君、これが何で出来ているか分かるかい?」


「さぁ・・・黒鉄とかそこら辺じゃないですか?」


それを聞くと、ルイン・ウォーカーは(おとがい)に手を当てて考える姿勢を見せた。


「これを・・・どこで?」


「?

雑用を始めた頃、ドブ攫いを任されたことがあるんですけど その底に刺さってたんですよね。」


「ドブ・・・水の底か・・・。」


ルイン・ウォーカーは我が愛剣の黒い剣身を撫で始めた。

正直、指の油が付くから止めて欲しい。


そうして暫くの間 物思いに耽っていた様子のルイン・ウォーカーだが、やがて愛剣を撫でるのを止めて私に返してくれた。


「─── いや、私の気のせいだろう。

銘こそ無さそうだが、良い造りの短剣だ。

大事にすると良い。」


「別に貴方に言われずとも大事にしますよ・・・。」


何だか妙な態度のルイン・ウォーカーを疑問に思いつつも、私は軽く剣身の油を拭き取ると手入れをしてから愛剣を鞘に仕舞い直した。

・ペーパーナイフ:

 一般的には文字通り紙を切断する用のナイフのことだが、短めの剣への蔑称として使われることもある。


・最後の審判:

 死者が復活し、全ての悪と全ての善が明らかになる終末のこと。


・黒鉄:

 死骸の沈む湿地にて生まれる重金属。

 鉄でありながら鉱石ではなく有機の腐りを孕んだそれは、衝撃にこそ強いが延性が弱く、故に扱いに高い技量が求められる。

 この金属で作られた武具は、重量こそあるが普通の鉄で出来た物と比べると遥かに頑丈なことで知られる。

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