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過労死令嬢は二度目の搾取をお断りします〜善行通販で辺境を豊かにしたら元婚約者は自滅し、公爵様に溺愛されました〜  作者: 月神世一


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EP 4

規格外の天然ボケ。一刀両断のバカンスと消えた山

 絶品のマサカ茸の網焼きと、秋の味覚がたっぷり詰まったキノコ汁。

 ポポロ山の中腹で広げられた私たちのささやかな宴は、最高に美味しく、そして最高に騒がしいものだった。

「ふぅ……。お腹いっぱいですわ。前世の社員食堂のA定食(※ワンコイン)が懐かしくなるほどの贅沢……」

 私は食後の陽薬草茶をすすりながら、大きく伸びをした。

 ポカポカとした秋の陽気。小鳥のさえずり。そして、すぐ隣にはコーヒーカップを傾けながら優雅に読書(帝国地理の専門書)をしているジルヴェスター様がいる。

 書類も決裁印もない、完全な『オフ』の時間。

 強制的に連れ出されたとはいえ、この穏やかな時間は、疲れ切っていた私の心と身体を芯から解きほぐしてくれていた。

「いやー、食った食った! 公爵の旦那、ごちそうさまでした!」

 フェイトが満足げに腹を叩き、切り株に寝転がる。

「ナツコ様の手料理、まさに絶品でした。このマンミア、胃袋までナツコ様に忠誠を誓います!」

 マンミアさんも、キノコ汁を三杯おかわりしてホクホク顔だ。

 平和な昼下がり。

 このまま、ポポロ村の温泉にでも浸かって帰れば、完璧な慰安旅行になるはずだった。

 ――彼女が、再び余計なインスピレーションを受信しなければ。

「……ピコーン!!」

 焚き火のそばで大人しくしていたはずのリーザちゃんが、またしても芋ジャージの襟を立て、見えないメガネをクイッと押し上げる動作をした。

(しまった……! マサカ茸の成分が、まだあの子の脳内に残留しているのね!)

「皆さま! 私の『0.5倍増し』の灰色の脳細胞が、再びとんでもない真実を導き出しましたわ!」

 リーザちゃんはバッと立ち上がると、ポポロ山の隣にそびえる、ひときわ巨大で険しい岩山をビシィッ!と指さした。

「まさか……! あちらの山から、とてつもない『金目おたから』の匂いがしますわ!」

「金目の匂い、だと?」

 寝転がっていたフェイトが、ピクッと反応して身を起こした。

「ええ! 間違いありませんの! 私の【貧乏神】の勘(※本来お金には縁がないはずのスキル)が告げています! あの岩山の奥深くに、莫大な金脈か、古代の財宝が眠っていると! あそこを掘り起こせば、私専用のアイドル・ドーム球場が建設できますわーっ!」

「アホかお前は。あんな切り立った岩山、プロのドワーフ鉱夫でも掘り進むのに十年はかかるぜ。それに、あの山はルナミス帝国と他国の国境スレスレの未開拓エリアだ。勝手に手を出したら面倒なことになる」

 フェイトが呆れたように手をひらひらと振る。

 まったくその通りだ。私はホッと息を吐き、お茶をもう一口飲もうとした。

 しかし。

 私の隣で、静かに本を閉じた人物がいた。

「……ほう。金脈か」

 ジルヴェスター様が、興味深そうに目を細めて隣の岩山を見つめていた。

「じ、ジルヴェスター様? まさか、リーザちゃんのマサカ茸による妄言を真に受けているわけでは……」

「いや。この山の地質と隣の岩山の断層を考慮すれば、希少鉱脈が眠っている可能性は十分にある。もし金脈が発見されれば、特区の経済はさらに潤い、君の計画する新たな物流網の巨大な資金源となるだろう」

 ジルヴェスター様は顎に手を当て、極めて合理的な『為政者』の顔で思考を巡らせていた。

「しかし、フェイトの言う通り、あの山は険しすぎる。採掘ルートを確保するためには、あの岩山そのものが巨大な『障害物』となるな」

「ええ、そうですね。ですから、今は……」

 私が「諦めましょう」と言いかけた、その瞬間だった。

「ならば、話は早い」

 ジルヴェスター様が、スッと立ち上がった。

 そして、腰に帯びていた護身用の騎士剣(※国宝級の名剣)を、チャキッ……と静かに引き抜いたのだ。

「えっ……公爵様?」

 私はポカンと口を開けた。

 フェイトもマンミアさんも、何事かと彼を見上げる。

「障害物があるのなら、排除すればいい。……私が、道を切り開こう」

 ジルヴェスター様は極めて真剣な、しかしどこか『オフ』の気の抜けた表情のまま、スゥッと静かに息を吸い込んだ。

 その瞬間。

 ポポロ山一帯の空気が、急激に重圧を増し、ビリビリと震え始めた。

 彼の全身から、フェイトのコイントス無双すら児戯に思えるほどの、圧倒的で濃密な『蒼き闘気』が爆発的に噴き上がったのだ!

「ちょっ……旦那!? マジで何する気だ!?」

 フェイトが慌てて立ち上がる。

「はぁぁぁぁっ……!」

 ジルヴェスター様は、構えた剣を真っ直ぐに上段へ振りかぶった。

 その刃に集束していく闘気は、もはや一つの巨大な光の柱となり、天を突くほどの長さにまで伸びている。

(う、嘘でしょ……!? いくらなんでも、冗談よね!?)

 私の悲鳴にも似た思考を置き去りにして。

 ルナミス帝国全軍の総司令官であり、単独で一国を滅ぼせるほどの規格外の力を持つ男は、隣の巨大な岩山に向けて、なんの気負いもなくその剣を振り下ろした。

「――『覇断はだん』」

 ズバアァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!

 音よりも先に、光が走った。

 ジルヴェスター様の剣から放たれた極大の三日月型の斬撃波が、すさまじい速度で隣の岩山へと直撃する。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!!!

 数秒遅れて、鼓膜が破れんばかりの轟音と、大地を揺るがす大地震がポポロ山を襲った。

 私たちが目を開けていられないほどの土煙と突風が吹き荒れる。

「きゃああぁぁっ!?」

「ナツコ様、おつかまりを!」

 マンミアさんにしがみつきながら、私は必死に風に耐えた。

 やがて、突風が収まり、もうもうと立ち込めていた土煙が晴れていくと――。

「…………は?」

 フェイトの口から、ポロリとポポロ・シガレットが落ちた。

 リーザちゃんも、マンミアさんも、そして私も。

 全員が、目の前の光景に言葉を失い、石像のように固まっていた。

 先ほどまで、隣にそびえ立っていた巨大な岩山。

 それが、中央から見事に真っ二つに『一刀両断』され、巨大なV字型の渓谷キャニオンへと姿を変えていたのだ。

 断面は鏡のように滑らかで、あまりの威力の前に、周囲の雲すらも綺麗に真っ二つに割れている。

「ふむ。少し筋が悪かったか。だが、これなら鉱夫たちも安全に山に入れるだろう」

 当のジルヴェスター様は、チャキッ……と優雅な所作で剣を鞘に納め、満足げに頷いていた。

 額に汗一つかいていない。まるで「ちょっとそこの邪魔な小石を蹴飛ばしておいたよ」くらいのテンションだ。

 数秒の完全な静寂の後。

 フェイトが、頭を抱えて絶叫した。

「旦那ァァァァッ!! 何してんすか!? あんた何してんすかぁぁぁっ!!」

「ん? どうした、フェイト」

「どうしたじゃねぇよ! 俺たち、慰安旅行に来たんすよね!? なんで隣の山を地形ごとブッ飛ばしてんすか! 他国に侵略しに来たんすかあんたは!!」

 フェイトの渾身のツッコミが山に木霊する。

 しかし、ジルヴェスター様は不思議そうに小首を傾げた。

「……そうか。言われてみれば、やりすぎたかもしれないな」

「かもしれない、じゃねぇっつの!!」

「だが、君たちの言う『金脈』へのルートは確保できた。為政者として、領民の利益となる障害物を排除するのは合理的な判断だ。……それに、今日は『オフ』だからな。魔力の制御を少し緩めてしまった。つい、やってしまったよ」

 真顔で。

 一切の悪気もなく、ただ「合理的な判断」と「オフの気の緩み」で山を一つ消し飛ばしたと言うのだ。

(これが……B型気質の、有能すぎるが故の『規格外の天然ボケ』……っ!!)

 私は顔面を蒼白にしながら、前世のコンプライアンス研修の記憶を総動員してパニックに陥っていた。

「じ、ジルヴェスター様ぁぁっ! 国際問題です! 国境スレスレの山を物理的に破壊するなんて、環境破壊と不可侵条約への重大な違反行為ですわ! ああっ、始末書……法務省と外務省への謝罪文の起案をすぐに――!」

 私が青ざめて頭を抱えていると、一刀両断された岩山の断面から、ゴゴゴゴ……と不気味な地鳴りのような音が響き始めた。

「ん……? おいボス、旦那! あそこを見ろ!」

 フェイトが、真っ二つに割れた山の断面を指さした。

 土煙が完全に晴れたそこに露出していたのは、金脈でも財宝でもなかった。

 鈍く光る金属と、不気味な生体組織で構築された、巨大な『人工物』。

 それは、周囲の岩盤に寄生するように作られた、巨大なハチの巣のような禍々しい要塞だった。

「……あれは」

 ジルヴェスター様の瞳が、スゥッと細められる。

 先ほどまでの天然ボケの空気が一瞬で消え去り、極寒の『司令官』の顔へと切り替わった。

死蟲軍サルバロスの……前線隠し基地ですわ!」

 私は息を呑んだ。

 神蟲魔大戦で敗れ、ダンジョンに封印されているはずの『死蟲王サルバロス』。その眷属である死蟲機たちが、ルナミス帝国の国境付近の岩山内部に、これほど巨大な拠点を極秘裏に構築していたのだ。

 ギギギギギッ……! カサカサカサカサッ……!!

 山が両断され、基地が露出したことで、パニックに陥った無数の『死蟻型ネクロアント』や『死蜂型ネクロワスプ』といった機械蟲どもが、黒い濁流のように基地から溢れ出し始めた。

「な、なんてこった……! あの数、何千、いや何万匹いるか分からねぇぞ!」

 フェイトがミスリルソードを引き抜く。

「ナツコ様! ここは危険です、お下がりを!」

 マンミアさんもパイルバンカーを構え、私を守るように前に出た。

 放置すれば、麓のポポロ村が機械蟲の波に飲み込まれてしまう。

 私の脳内で、ブチッ、と音を立てて『オン』のスイッチが切り替わった。

「……慰安旅行は、ここまでね」

 私は極限の集中状態に入り、視界の右隅の【善行ポイント通販】を展開した。

 休めと言われても、目の前に理不尽な危機トラブルがあれば、全力で処理に当たる。それが社畜の、そして実務顧問としての私の責任だ!

「マンミアさん、フェイトさん! 迎撃のロジスティクスを構築します! 持ちこたえてちょうだい!」

 まさかのマサカ茸が引き金となり、天然ボケの一撃が暴き出した国家の危機。

 私たちのバカンスは、一瞬にして、死蟲軍との熾烈な防衛戦へと変貌を遂げたのだった!

お読みいただきありがとうございます!

第四章第4話、ついにジルヴェスター様の「規格外の天然ボケ」が炸裂しました!

「オフだから魔力の制御を緩めてしまった」「ついやってしまった」という真顔の言い訳とともに山を真っ二つにする公爵様と、それに全力でツッコミを入れるフェイトの構図、楽しんでいただけたなら幸いです。

しかし、その一撃がとんでもないものを掘り当ててしまいました。国境に潜んでいた死蟲軍の隠し基地です!

せっかくのバカンスでしたが、次話からはナツコの「オン(社畜モード)」と、ジルヴェスター様の大人の狡猾さ(マリーシア)が爆発するお仕事&アクション回へ突入します。

「公爵様ヤバすぎ!」「フェイトのツッコミ最高!」と思っていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】と、ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価いただけますと大変励みになります!

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