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過労死令嬢は二度目の搾取をお断りします〜善行通販で辺境を豊かにしたら元婚約者は自滅し、公爵様に溺愛されました〜  作者: 月神世一


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第四章 ポポロ山の『マサカ茸』と、不器用な公爵の極上バカンス

地下アイドルの新ビジネスと、限界突破の社畜令嬢

「……はい、こちらの『王都・新流通網に関する特措法』の書類、確認いたしました。第三項の税率計算に微小なズレがありますので、至急修正して法務省へ再提出を。……それから、ポポロ村からの追加物資の搬入スケジュール、明日の朝一番で第七倉庫の管理人に通達しておいてください」

「は、はいっ! かしこまりました、ナツコ様!」

 ルナミス帝国の頂点にそびえ立つ、ヴァルハイト公爵邸の特別執務室。

 私はデスクに山のように積まれた書類の束を、前世で鍛え抜かれた限界社畜の凄まじいスピードで処理し続けていた。

 ヤラセの課金勇者ゼロスを社会的に抹殺し、王都の経済を正常化してから数日。

 皇帝陛下主催の夜会で、ジルヴェスター様から「未来の公爵妃」として正式な婚約発表を受けた私は、今や帝国中で最も注目を集める存在となっていた。

 ……のだが。

(終わらない……! 仕事が、全然終わらないわ……っ!)

 王都の経済を一新するということは、それに伴う法整備、契約書の巻き直し、新規ルートの監査など、膨大な『実務』が新たに発生することを意味する。

 元限界社畜の私は、「自分がやらなければ現場が止まる!」という悲しいサガにより、睡眠時間を削って書類と格闘する日々を送っていた。

「ナツコ様、少しお休みになられては……。目の下に、酷いクマができておりますわ」

 私の横で、書類の仕分けを手伝ってくれているマンミアさんが、心配そうに声をかけてくれた。

「大丈夫よ、マンミアさん。……この『超濃縮・陽薬草エナジードリンク(※致死量のカフェインと回復魔法入り)』を飲めば、あと三日は徹夜できるわ!」

 私は瞳孔をガンギマリに開いたまま、緑色の怪しい液体をグイッと飲み干し、凄まじいタイピング速度で魔導端末を叩き続けた。

「ひぃっ!? ナ、ナツコ様から、かつての死蟲機よりも恐ろしい闘気ブラックオーラが……!」

「私の辞書に『未処理(タスク残)』の文字はないのよ! さあ、次の稟議書を持ってきなさい!」

 カタカタカタカタッ……! ターンッ!!

 もはや自分が仕事をしているのか、仕事が私を動かしているのか分からない。完璧な「オン(社畜・トランス状態)」に突入していた。

 バンッ!!

 その時、執務室の重厚な扉が勢いよく開け放たれた。

「ボス! 大変だ! またあのアホ人魚アイドルが王都でヤバい騒ぎを起こしてやがるぜ!」

 ポポロ・シガレットを咥えたフェイトが、血相を変えて飛び込んできた。

「……フェイトさん。私は今、コンマ一秒を争うロジスティクスの計算中です。リーザちゃんがまた試食コーナーを荒らしたくらいなら、デパートの店長に事後決済で経費を振り込んでおいてちょうだい」

「いや、試食じゃねえんだ! あいつ、ルナミスデパートの屋上で『新アトラクション』とか抜かして、信者ファンたちを集めてとんでもねえ集金イベントを始めやがったんだよ!」

「……新アトラクション?」

 私のタイピングの手がピタリと止まった。

「ああ。名付けて『お賽銭箱型バンジージャンプ』だ!」

「は……?」

 私は手元のエナジードリンクを吹き出しそうになった。

        ◇

 急遽、馬車を飛ばしてルナミスデパートへ向かうと、デパートの周辺は大勢の野次馬とアイドルファンたちでごった返していた。

 デパートの屋上。王都の街並みを一望できるその高所に、特設ステージと、巨大なクレーンが設置されている。

『さあさあファンの皆様ーっ! 究極の愛(Love)と恐怖が交差する、奇跡のアトラクションの始まりですのーっ!』

 魔導マイクを通して、王都中に響き渡るテンションMAXの声。

 芋ジャージの上に特製アイドルドレスを羽織ったリーザちゃんが、キラキラの極上スマイルを振りまいていた。

『ルールは簡単! 腰に命綱バンジーロープをつけて、このデパートの屋上からダイブ! そして地上スレスレに設置された私の【お賽銭箱型掃除機ブラックホール】に向かって、空中から全財産スパチャを投げ入れるのですわ!』

 リーザちゃんがビシッと地上を指さす。

 見れば、デパートの真下の広場には、彼女の【貧乏神】スキルによって顕現した、あの『超巨大な木製のお賽銭箱』が不気味に口を開けて待っていた。

『恐怖の絶叫とともに撒き散らされる金貨! それを一瞬で吸い込むお賽銭箱! 最高にエキサイティングな愛の証明ですわ! さあ、勇気ある第一号のファン、いらっしゃいませーっ!』

「おおおおぉぉぉっ! 俺が行くゥゥゥッ! リーザちゃんへの愛を証明するんだァァァッ!」

 熱狂したファンの一人(恰幅の良い商人)が、自ら進んで腰にロープを巻きつけ、デパートの屋上の縁に立った。

 リーザちゃんが隣で『Love & Money』のアコースティック・バージョンを優しく歌い始める。

「り、リーザちゃぁぁぁん!! 愛してるぅぅぅっ!!」

 商人が屋上から虚空へ向かってダイブした!

 ヒュルルルルルッ……という風切り音とともに、彼は空中でサイフの口を全開にし、大量の銀貨や金貨を雨のようにバラ撒き始めた。

「ひゃはぁぁぁっ! スパチャの雨ですのーっ!」

 リーザちゃんが屋上から手を振る。

 地上では、巨大なお賽銭箱が『ズゴゴゴゴォォォッ』と恐ろしい吸引力を発揮し、空から降ってくる硬貨を一枚残らず吸い込んでいく。

 商人は地上数十センチのところでバンジーロープによってビヨン!と跳ね返り、恐怖と興奮で「最高ォォォッ!」と絶叫していた。

「な……ななな、何を考えているのよあのアホ人魚はぁぁぁっ!!」

 現場に到着した私は、あまりの惨状と狂気的な光景に頭を抱え、絶叫した。

安全基準コンプライアンスが一切守られていないじゃないの!! あんな素人が巻いたロープ、少しでも計算が狂ったら地上に激突して即死よ! それに、硬貨を空からバラ撒くなんて、下にいる通行人に当たったら凶器になるわ!」

「ボス! 二人目が飛び降りようとしてるぜ!」

 フェイトが空を指さす。

「止めなさい! 今すぐあの狂気のダイブを止めるのよ!」

 私は極度の過労によるめまいを気合いでねじ伏せ、視界の右隅の【善行ポイント通販】を凄まじい速度で操作した。

【超高弾力・衝撃吸収スライムクッション(広場展開用):200 pt】

【対落下物用・不可視の防護ネット(魔導力場展開型):150 pt】

「展開!!」

 ポチッ!

 私が購入ボタンを押した瞬間。

 二人目のファンが「ヒャッハァァァ!」と金貨を撒き散らしながらダイブした直後、地上の広場全体に、巨大な『透明なスライムのクッション』が瞬時に展開された。

 空から降ってくる金貨は、防護ネットによって安全にキャッチされ、誰にも当たることなくお賽銭箱へと誘導される。

「ウオォォォッ!? なんだこのポヨンポヨンはぁぁぁっ!」

 バンジーのロープが少し長すぎた二人目のファンは、地上に激突する寸前でスライムクッションにふんわりと受け止められ、命拾いをした。

「……はぁ、はぁ……間に合った……」

 私は膝に手をつき、荒い息を吐き出した。

 その後、私とマンミアさん、フェイトの三人で屋上に乗り込み、狂乱するリーザちゃんを物理的(パイルバンカーの脅し)に説教し、この危険極まりない違法アトラクションを強制終了させた。

「ううっ……ごめんなさいスポンサー様……。ファンのみんなにスリルと愛を同時に提供できる、最高のビジネスモデルだと思ったんですの……」

 デパートの屋上で、芋ジャージ姿のリーザちゃんが正座をして涙目になっている。

 その周りでは、フェイトが「俺も一回飛んでみたかったぜ……」とぼやき、マンミアさんが「命を粗末にするな!」と一喝していた。

「いいこと、リーザちゃん。エンタメにスリルは必要だけど、お客様の『命の安全』が担保されていない企画は、ただの殺人未遂よ! 次こんな無許可イベントをやったら、一ヶ月間ルナキンの出入り禁止(パンの耳生活に逆戻り)にするからね!」

「ひぃぃぃっ! それだけは! ルナキンのハンバーグだけは奪わないでくださいましーっ!」

 リーザちゃんが私の足元にすがりついて平謝りする。

「分かればいいのよ……まったく、ただでさえ山のように書類が溜まっているのに、こんな突発的なクレーム処理まで……」

 私は説教を終え、ふう、と深く息を吐き出した。

 ――その瞬間。

 グラッ……。

 視界が不自然に傾き、頭の中の糸がプツン、と音を立てて切れるのを感じた。

「……あれ?」

 三日間の徹夜、致死量のカフェイン、そして全力のコンプラ対応。

 社畜令嬢の限界突破していた『オン』のスイッチが、ついに強制終了を迎えたのだ。

「ボス!?」

「ナツコ様!!」

 フェイトとマンミアさんの悲鳴のような声が遠く聞こえる。

 私の身体は、支えを失った操り人形のように、冷たい屋上のコンクリートへ向かって崩れ落ちていった。

(あ、ダメ……まだ、第七倉庫の決裁印を、押してないのに……)

 意識が暗闇に沈む直前。

 ふわりと、どこからか心地よい珈琲の香りが鼻をかすめ。

 崩れ落ちる私の身体を、強靭で、信じられないほど温かい『誰かの腕』が、しっかりと抱きとめてくれた感触があった。

「――だから、言っただろう」

 低く、少しだけ怒気を孕み、けれどどこまでも優しい声。

「君は、一人で背負い込みすぎるのだと」

 その絶対的な安心感に包まれながら、私の意識は今度こそ、完全な深い眠りへと落ちていったのだった。

お読みいただきありがとうございます!

第四章第1話、いかがでしたでしょうか。新章の幕開けは、極貧アイドル・リーザちゃんの狂気の新ビジネス「お賽銭箱型バンジージャンプ」と、それに振り回される過労気味のナツコというドタバタコメディからスタートしました。

限界まで「オン(仕事モード)」で走り続けたナツコがついに倒れ、最後に彼女を抱きとめたのは……もちろん、あの規格外で有能なお方です!

次回から、ヒーローによる強制的な『オフ(慰安旅行)』が発動します。有能でマイペースなB型ヒーローの魅力が全開になりますので、どうぞお楽しみに!

「リーザのアトラクションヤバすぎ!」「ナツコ、ゆっくり休んで!」と思っていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】と、ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけますと、執筆の最大の励みになります!

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