EP 6
偽りのチャリティーと、貧乏神アイドルのゲリラ・ライブ!
ルナミス帝国の王都、その中心に位置する『中央大広場』は、熱狂的な歓声と拍手に包まれていた。
「みんなーっ! 今日は集まってくれて本当にありがとう! 君たちの温かい支援があれば、俺はもっともっと強くなって、この世界から魔獣を駆逐してみせるよ!」
巨大な特設ステージの上で、真っ白な歯をキラリと輝かせながらマイクを握りしめている男――ヤラセの課金勇者、ゼロス・ディバインだ。
昨夜の「自作自演・魔獣パニック配信」をフェイトによって物理的に粉砕された彼は、焦りに焦っていた。
ナツコの仕掛けたコンプラ違約金(金貨五十万枚)の支払期限が迫る中、彼に残された手段は、狂信的なファン(信者)たちから直接現金と投げ銭を巻き上げる『チャリティー・ライブ』の開催しかなかったのだ。
『キャアァァァッ! ゼロス様ぁぁぁっ!』
『なんて気高いの! 私の生活費、全部寄付します!』
広場を埋め尽くす数千人のファンたちが、ゼロスの甘い言葉に騙されて熱狂し、ステージに設置された募金箱へ次々と金貨や銀貨を投げ入れている。
さらに、ゼロスの視界にだけ見える神界配信サイト【ゴッドチューブ】のARウィンドウには、滝のような勢いで『スパチャ(投げ銭)』の金額が加算されていた。
(ゲハハハッ! チョロい、チョロすぎるぜ! このバカな下民どもの金を吸い上げれば、違約金なんてすぐに払えるし、俺の【マネー】スキルも無限に発動できる!)
ゼロスは心の中で下卑た高笑いを上げながら、表面上は聖人君子のような爽やかな笑顔を振りまいていた。
――だが、彼のその虚飾のステージが頂点に達しようとした、まさにその時である。
ズンッ……! ズズンッ……!!
突如として、ゼロスの特設ステージの真横(わずか十メートル先)に、空から降ってきたかのような『謎の黒い箱』が設置された。
「……あ? なんだありゃ?」
ゼロスがいぶかしげに視線を向けると、その黒い箱がパカッと展開し、色鮮やかなネオンライトと巨大な魔導スピーカーを備えた『ゲリラ・ライブステージ』へと早変わりしたのだ。
そして、魔導スピーカーから、ゼロスのマイク音量を完全に掻き消すほどの、凄まじい爆音のイントロが鳴り響いた!
『五円!五円!御縁!御縁!ハイ!』
『五円!五円!御縁!御縁!ハイ!』
「な、なんだ!? 何の騒ぎだ!?」
ゼロスのファンたちが、突然の爆音に驚いて一斉に隣のゲリラステージへと振り返る。
ピカァァァァッ!!
まばゆいスポットライトに照らされてステージに飛び出してきたのは――。
「ルナミスの皆さーん! 歌で世界を救う、超絶無敵地下アイドル! リーザ・シーラン・リヴァイアサンですのーっ!!」
透き通るようなエメラルドグリーンの髪を揺らし、極上の笑顔を弾けさせる超絶美少女、リーザちゃんだった。
今日の彼女は、いつもの芋ジャージではない。
私が【善行ポイント通販】で150ptを消費して取り寄せた『フリルたっぷり・オーシャンブルーの特製アイドルドレス』を身に纏い、その美貌とプロポーションを完璧に輝かせている。
「な、なんだあの美少女は……!?」
「すっげえ可愛い! あんな子、王都にいたか!?」
リーザちゃんの圧倒的なビジュアルに、広場の群衆が一瞬で息を呑む。
だが、彼女の真の恐ろしさはビジュアルではない。腐っても人魚姫の純血――その『奇跡の歌声』である。
『銅でもない 銀でもない♪』
『狙い打つのは 真鍮のゴールド!』
『穴の向こうに 未来が見える♪』
『覗いてみてよ 私とキミのディスタンス!』
リーザちゃんが元気いっぱいに歌い踊り始めた瞬間。
広場の空気が、ぐにゃりと歪んだような錯覚に陥った。
(きたわね……! 人魚姫の魅了の歌声と、【貧乏神】スキルの強制発動……!)
私はステージの袖で、プロデューサーとしての腕章をつけながらニヤリと笑った。
私の隣では、タローマン特注の『オタク用ハッピ』を着せられたフェイトとマンミアさんが、両手に持った魔導ペンライトをヤケクソ気味に振り回している。
「ウリャオイ! ウリャオイ! リーザちゃんサイコーッ!!(クソッ、なんで俺がこんな恥ずかしい真似を……!)」
「我らがナツコ様のご命令だフェイト! 全力で合いの手を入れろ! L!O!V!E! ラブリー・リーザ!!(……意外と楽しいですわね、これ)」
サクラ(最強の二人)の完璧なコール&レスポンスに釣られ、ゼロスの前にいた観客たちが、まるで磁石に吸い寄せられるようにリーザちゃんのステージへと大移動を始めた。
「お、おい! どこに行くんだお前ら! 俺のチャリティーはどうなるんだよ!」
ゼロスがマイクを通して叫ぶが、誰一人として彼を振り返らない。
『スーパーのレジじゃ 嫌な顔(ヤメテ!)♪』
『お賽銭箱なら ドヤれるの(神様ー!)♪』
「おおおおおっ! リーザちゃぁぁぁん!!」
「俺の金を受け取ってくれぇぇぇっ!」
リーザちゃんの歌声に魅了された観客たちが、熱狂の渦に巻き込まれていく。
だが、ここからが【貧乏神】スキルの真骨頂だ。
『絶対無敵のスパチャアイドル!♪』
『五円が積もれば 山となる!♪』
ズゴゴゴゴゴォォォォッ……!!
リーザちゃんの背後に、幻影のような『超巨大な木製のお賽銭箱』が浮かび上がった。
それは、周囲の空間からあらゆる「富」と「運気」を吸い上げる、最凶のブラックホール(お賽銭箱型掃除機)。
「な、なんだありゃあ!?」
ゼロスが目を見開く。
その直後、ゼロスのステージに置かれていた『募金箱』の底が突然パカン!と開き、中に入っていた大量の金貨や銀貨が、まるで意思を持っているかのように宙を舞い、リーザちゃんの背後のお賽銭箱へと猛スピードで吸い込まれていったのだ!
「ああっ!? 俺の、俺の金貨がぁぁぁっ!?」
物理的なお金だけではない。
ゼロスの視界に表示されていた【ゴッドチューブ】のスパチャ・メーターが、急激に逆回転を始めた。
ピロロロロロッ!と警告音が鳴り響き、彼の口座にストックされていた莫大な電子マネー(課金残高)が、リーザちゃんの歌声の引力に負け、すべて「お賽銭」として強制送金(没収)されていく!
「ウソだろ!? やめろ、やめてくれぇぇっ! 俺のマネーが! 俺のステータスが吸い取られていくぅぅぅっ!!」
ゼロスがマイクを放り出し、空を飛んでいく自分の金貨に向かって惨めに手を伸ばす。
だが、彼の【マネー】スキルでは、神格クラスのユニークスキルである【貧乏神】の絶対的な没収力には到底抗えなかった。
『御縁をちょーだい キラキラ☆キラリ♪』
『推しの生活 支えてちょーだい!♪』
『ハイ!ハイ!スパチャよろしく!』
――ジャンッ!!
リーザちゃんが最高のウインクとともに曲を歌い終えた瞬間、広場は割れんばかりの大歓声と拍手に包まれた。
「リーザ! リーザ! リーザ!」
完全に魅了された王都の民衆たちが、新たなアイドルの誕生に熱狂している。
一方。
その隣のステージでは。
「あ……あぁ……っ」
ゼロス・ディバインが、空っぽになった募金箱と、残高が『ゼロ』になったゴッドチューブのアカウント画面を見つめ、膝から崩れ落ちていた。
「俺の……俺の金が……全部、消えた……?」
ピキィィィン……ッ。
資金が枯渇したことで【マネー】スキルが強制解除され、ゼロスが纏っていた輝く『聖なる鎧(課金アイテム)』が、ボロボロのただの布きれへと姿を変える。
厚底ブーツの魔法も解け、彼の身長がガクンと縮み、ただの小柄な一般男性の姿が露わになった。
「あら。ずいぶんと風通しの良さそうなお姿になりましたこと」
私はゆっくりとステージを降り、絶望してへたり込むゼロスの前へと歩み寄った。
「な、なんだお前は……! お前の仕業か! あの女の歌で、俺の金を盗みやがったな!」
ゼロスが血走った目で私を睨みつける。
「盗むだなんて、人聞きの悪い。あれはリーザちゃんの魅力に、貴方のお金が『自発的にお賽銭として家出をした』だけですわ」
私は完璧なビジネススマイルを浮かべ、クリップボードを開いた。
「それよりも、ゼロス・ディバイン様。貴方の口座残高がゼロになったということは……昨日確定した『違約金・金貨五十万枚』の支払いが、本日付で【不渡り(デフォルト)】になったということですわね?」
「ひっ……!?」
「他人の金とヤラセで作ったメッキは、剥がれる時も一瞬ですわ」
私は冷徹な視線で、かつて勇者と呼ばれた男を見下ろした。
「さあ、お支払いのお時間です。……課金の切れた貴方に、どうやって落とし前をつけていただきましょうか?」
王都の経済を裏で操り、ヤラセで民を欺いてきた成金勇者。
最凶の貧乏神アイドルによって全財産を失った彼の前に、社畜令嬢の無慈悲な『取り立て』の地獄が口を開けていた。
お読みいただきありがとうございます!
第三章第6話、リーザちゃんの【貧乏神】スキルがついに火を噴きました! ヤラセ勇者の課金マネーを「お賽銭」として根こそぎ吸い上げるという、最高のエグい(そして笑える)カウンターが決まりましたね。
「リーザちゃん最強すぎる!」「ゼロスのメッキが剥がれてスッキリ!」と思っていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】と、ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価いただけますと大変励みになります!
次回、無一文になったゼロスへの徹底的な「ざまぁ」と、彼を裏で操っていた炎上神ワイズの焦燥……そして、天界でのルチアナおばさん(女神)の鉄拳制裁が炸裂します! どうぞお楽しみに!




