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Lumiel Princess〜精霊姫と暁炎の王子〜  作者: 香百杏
第一章 花起こし

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第十四話 憧れの背中【後編】


 帰国を翌朝に控えた夕刻。


 セシルは王城の廊下を小走りに駆けていた。


「アルクスレイブン殿下は、どちらにいらっしゃるでしょうか」


 廊下で出会った侍従へ尋ねると、侍従は丁寧に一礼した。


「王城の中庭にいらっしゃいます」


「ありがとうございます!」


 セシルは足を速め、中庭へ向かう。


 そこには、夕日に照らされた楓の木の下で、静かに景色を眺めるアルクスレイブンの姿があった。


「アルクスレイブン殿下!」


 元気な声に振り返ると、アルクスレイブンは穏やかに微笑む。


「セシル殿下」


「どうかなさいましたか」


 セシルは少し息を整えると、まっすぐアルクスレイブンを見上げた。


「明日にはフィオレインへ帰ります」


「その前に、お礼を申し上げたくて」


 アルクスレイブンは優しく頷く。


「こちらこそ、ありがとうございました」


「ご一緒できて、とても楽しい時間でした」


 その言葉だけでも、セシルは嬉しかった。


 けれど、どうしても伝えたいことがもう一つある。


「あの……」


「僕、殿下のような王族になりたいです」


 アルクスレイブンは少し驚いたように目を瞬かせた。


「私のように、ですか」


「はい!」


 セシルは大きく頷く。


「城下町で皆さんが殿下へ笑顔で話しかけていました」


「子どもたちも、お年寄りも、お店の方も」


「殿下も皆さんのお名前を覚えていて、とても楽しそうにお話しされていました」


 少し照れながら続ける。


「僕、あんな王族になりたいと思ったんです」


「皆さんに慕われて、困っている人がいたら助けられるような」


「兄上を支えられるような王族になりたいです」


 アルクスレイブンはしばらくセシルを見つめ、穏やかに微笑んだ。


「セシル殿下なら、きっとなれます」


「城下町では、多くの方へ笑顔で挨拶をされていましたね」


「皆様のお話も、最後までしっかり聞いておられました」


「それは王族として、とても大切な資質です」


「あなたは、人を思いやる心をお持ちです」


「そのお気持ちを忘れなければ、きっと立派な王族になられるでしょう」


 その言葉は、セシルの胸へ真っ直ぐ届いた。


「ありがとうございます!」


 セシルは嬉しそうに笑った。


 そして、少しだけためらいながら口を開く。


「あの……もう一つお願いがあります」


「何でしょう」


「フィオレインへ帰ってから、お手紙を書いてもよろしいでしょうか」


「またお会いした時に、お話ししたいことがたくさんあると思うので」


 一瞬だけ静かな時間が流れる。


 アルクスレイブンは優しく目を細めた。


「もちろんです」


「私も、お返事を書かせていただきます」


 セシルの表情が一気に明るくなる。


「本当ですか!」


「ありがとうございます!」


 アルクスレイブンは穏やかに続けた。


「私は、国は違えど、同じ王族としてセシル殿下と良き友でありたいと思っております」


「互いに学び、支え合える関係でいられたら嬉しいですね」


 セシルは目を丸くした。


「良き友……」


 その言葉を噛みしめるように繰り返す。


 そして次の瞬間、満面の笑みを浮かべた。


「はい!」


「僕もです!」


「もっと勉強して、またお会いした時には胸を張ってお話しできるよう頑張ります!」


「楽しみにしております」


 二人は笑顔で固く握手を交わした。


    ◇◇◇


 翌朝。


 フィオレイン王国一行は帰国の準備を終え、王城の正門へ集まっていた。


 アッシェン国王夫妻、アルクスレイブンをはじめ、多くの人々が見送りに訪れている。


「このたびは誠にありがとうございました」


 フィオレイン国王の言葉に、アッシェン国王も穏やかに頷いた。


「またお会いできる日を楽しみにしております」


 挨拶を終えたセシルは、馬車へ乗り込む前にアルクスレイブンへ駆け寄る。


「お手紙、必ず書きます!」


 アルクスレイブンは優しく頷いた。


「私も楽しみにしております」


「お体にはお気を付けください、セシル殿下」


「はい!」


 セシルは満面の笑みで大きく手を振る。


 馬車がゆっくりと動き出す。


 窓から見えるアッシェンの街並みは少しずつ遠ざかっていった。


 セシルはその景色を見つめながら、小さく呟く。


「僕も、いつかアルクスレイブン殿下のような王族になりたい」


 その瞳には、新しい目標へ向かう強い光が宿っていた。


 アッシェン王国で過ごした数日間は、第二王子セシル・フィオレインにとって、忘れることのできない大切な思い出となったのだった。

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