王太子視点3
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「は?悪役はむしろ嬉々として不貞するあちらの方では?!」
………………………………………は?
メイドの言葉の意味を脳内で処理していると、護衛が続けた。向こうを見たままなのにやけに通る声だ。
「自分の不貞を大々的にアピールするなんて、王太子辞めるつもりなんですかね」
「んがっ!!!!」
思わずその場で跳びはねた。驚いたのか頭上の枝にいた鳥が暗い空に向かい音を立てて飛び立った。
着地すると側近たちが私を抑えてきたがもう跳びあがるつもりはない。そもそも何故自分が跳んだのかもわからない。……反射か?何のだ?
私とモモの愛は純粋なものだ。断じて不貞などではない。小公爵であるトルキルが側近でいる限り公爵家の後ろ盾も揺るがない。それが何故王太子を辞するという発想になるのか。……あの護衛は所詮平民。貴族の理を知らぬ者の戯言だ。
「あの男爵令嬢にそれほどの魅力があるとは思えないんすが……」
「あるのよ。『真実の愛』のお相手だもの」
無礼な護衛の言葉に婚約者が嫋やかに応える。流石理解がある。やはり側妃として置いてやろう。
護衛が乾いた笑いの後に続けた。
「なんの冗談すか。側近候補達にもベタベタ引っ付いて愛を囁いているのをよく見るっすけど」
婚約者が小首を傾げる。
「真実の愛と、……『友愛』?」
その通りだ!モモは聖女の如く慈悲深い心を持っているからな。
婚約者の言葉に内心で深く頷いているとまたしても護衛が衝撃的な言葉を吐いた。
「そんな訳ないですよ。先週、我慢しきれないのか空き教室の扉が閉じきる前に宰相子息と絡み合ってましたよ」
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
光速で振り返りオスヴィンを見る。暗がりで見開かれ光る双眼と合う。「あら、情熱的ね」という婚約者の呑気な声が通り過ぎた。
「オスヴィン……、貴様……!」
唸るように囁いてもオスヴィンは目を見開いたまま反応しない。これはまさか黒か?!主たる私の最愛に触れたというのか……?!!
ふと気づくと、コラド、ソル、トルキルもオスヴィンを凝視していた。皆目を見開き眉が上がり鼻の下も顎も伸び、顔が縦長になっている。……なんだその顔は?
「気づいて無さそうな王太子は兎も角、令嬢を共有してるの気分いいんすかね?」
護衛の声に今度は私が見開いた。
共・有!!!!――そんな馬鹿な!!!!!
側近達の伸びた顔が一瞬で短くなった。目は見開かれたままだ。……これは、皆、黒だ。
呆然とする私の耳に婚約者の穏やかな声が聞こえた。
「理解はできないけど、きっといいのよ。『真実の愛』は偉大なのよ」
よくないわい!!!!!!!
「お嬢、興味ないでしょ」
「ふふふ」
婚約者の楽し気な笑い声に衝撃を受ける。
興味が、ない。……私のことを好いているのではないのか?王太子妃の座に固執し、か弱いモモを痛めつけていたのではないのか?足元が揺れる。それでは、モモの流した涙は、私達の真実の愛は……。
混乱して鈍くなった私の思考を婚約者の言葉が斜め上から殴ってきた。
「そんなことより、やっと女神様との約束が果たせるわ」
――――は?メガミサマ?
「お嬢様、生まれ変わる前に女神様にお会いになったんですよね?」
ウマレカワリ??メガミサマニアッタ???
「そう。この世界では昔、戦争があったでしょう?多くの戦死者が出た。女神様が言うには余りにも呆気なく死を迎えた魂はまだこの世を彷徨っているそうなの。そして大切な人の帰りを待っていた者達も次の生に向かうことができないでいる。……循環する魂の数が減ると休むことができなくて世界そのものが疲れてしまうんですって。女神様には留まっている魂を送りだす手助けをするよう頼まれたのよ」
「なんか、何度聞いても凄いですね」
メイドと婚約者の会話の内容が呑気さに合っていない。彼奴らは何を言っているんだ。
神官長子息のソルが真剣な眼差しで婚約者を見ている。
「ソル、考えていることを言ってみろ」
「はい。……前世の記憶を持つ者がいたことは教会の記録に残っています」
ソルは慎重に言葉を区切ってから続けた。
「ですが、生まれ変わる前に神が降臨し使命を賜った魂は聞いたことがありません。これが真実であればあの方は『神子』と呼ばれる尊ぶべき存在と言えましょう」
そうなるか……。遠い目をしそうになっているとトルキルが割って入ってきた。
「でも姉は今でこそ取り繕っていますが子供の頃から怠惰で抜け出して遊ぶことばかり考えていた人間ですよ。そんな大層な者のわけありません」
「おお……、そうか」
「そうですよ。殿下はいつも姉のことを賢しらで冷たくて可愛げが無くて愛すべき要素がまるで無くてモモの方が王妃に相応しいって言っていたじゃないですか」
「おう、そう言った、か?」
トルキルの早口に驚く。指先を口元に当てて考え込んでいたオスヴィンが口を開いた。
「落ち着きましょう。漏れ聞こえてきた会話だけで公爵令嬢が『神子』であるとは断定できません。真偽を確かめる為にも尾行を続け行動を監視しましょう」
「そうだな」
私が肯定すると側近達も頷いた。いつの間にか婚約者達の持つランタンの光が遠ざかっているのに気付いて慌てて後を追う。
無言になるとまた思考が戻ってきた。
……モモがオスヴィン絡み合っていた。俄かには信じられないが皆の反応を見ると其々に思うことはあるようだった。他の者とも絡み合って……。私がしているハグは絡み合うとは言えないよな……?もしや私達に聞かせるために態と動揺させるようなことを?いや、尾行に気付いたとは思えない。そんな馬鹿な……。モモは清らかな乙女では……?
「――天の川だわ」
婚約者の声に我に返る。気が付けば森の中の開けた場所に着いていた。此処が目的地のようだ。3人は並んでのんびりと夜空を見上げている。
木の陰に隠れて聞き耳を立てているとまた古い戦の話をした後、婚約者が暗闇に向かい掌を合わせた。
暫しの静寂の後、静かな声が落ちた。
「――始めましょう。此処で待っていて」
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