公爵令嬢視点5
続きを開いていただきありがとうございます。
辺りがまた星明かりの闇に包まれた。
「――――ふぅ……」
無意識に息が漏れた。
……やり遂げたわ。…………けど待って。私めっちゃ熱唱してたわ。髪振り乱して踊ってたわ。……気まずい。
よし、こういう時こそ秘技、何食わぬ顔よ。
「……あら、うっかり王国中に祝福を与えてしまったわ」
オトとリツが控えている方を澄まし顔で振り返る。あ、距離があったわ。しかも真っ暗で見えてないし……。
更なる羞恥に内心悶えていると、遠くにふたつの灯りがついた。
ランタンを手にふたりが走ってくる。珍しく興奮した顔をしていた。
「お、お嬢様!すんっ、素晴らしかったです!」
オトがこれまた珍しく言葉を詰まらせた。リツはまじまじとこちらを見ている。
「お嬢。『王国中に祝福を与えた』って聞こえたんすけど」
あの距離で聞こえてたの?びっくりだわ。けど何食わぬ顔で返す。
「ええ。ささやかだけどね。彼らの来世の幸せと平和を祈ったから結果としてね」
「流石はお嬢様。聖女様だったんですね」
オトが両手を組んで見上げてきたので、その手をそっと解いた。
「違うわよ。そんな面倒なものでは断じてないわ。私は今まで女神様の為に頑張ってきたのよ。不本意だけど王家や公爵家の為にも頑張ってきた。約束を果たした今、私はこれから自由を謳歌する権利があるのよ」
令嬢的決めポーズをするとリツが親指を立てた。
「流石お嬢っす」
「でしょう?」
自慢気にに一回転してみせるとオトとリツが楽しそうに微笑んだ。ふたりのこの顔が好きだ。名案とばかりに手を叩いた。
「そうだわ。夜のうちに逃げちゃいましょう!どうせ明日には婚約破棄されて城どころか公爵家からも追い出されるんだし。女神様は愛のない場所から逃げても咎めたりしないわ。寧ろますます祝福される筈よ!」
「お嬢様のおっしゃる通りです」
「いいっすね」
ふたりとも秒で肯定してきた。依頼達成の高揚感で口走った自覚はあったので呆気にとられる。
オトはそんな主人の反応を気にせず続ける。
「ではこのまま参りましょう」
「え?いいの?」
「大丈夫です。いつだって即行動なお嬢様の為に荷物は纏めてあります」
オトがリツのマジックバッグからマジックバッグを引っ張り出した。マジックバッグインマジックバッグだ。
「流石!頼れるスーパーメイド様!今日もカワイイ」
「ありがとうございます」
クールに応えながらもほんのり頬が染まる。まじかわいい。リツがマジックバッグから何かを取り出した。
「王城から脱出するの面倒なんで贅沢してこれ使っちゃいません?」
手には転移の魔導具がある。用意がいい。メイドも護衛も頼りになる。
「いいわね。とっととずらかるわよ」
「お嬢様、言葉が乱れてます」
「いいのよ。もう公爵令嬢じゃないんだから。お嬢様もやめてね」
「えー」
返事を待たずに魔導具を起動させる。三人の足元に魔法陣が浮かんだ。
「――――待てっ!!!!!!」
遠くから怒鳴り声が聞こえた。振り返ると暗がりの中いくつかの人影が走ってきていた。けど暗いし遠いし良く見えない。
「王太子達っすね」
リツには見えているようだ。
「森に入った所からずっと付いて来てたっすよ」
「そうだったの?なんなの?暇なの?早く寝なさいよ。明日卒業式よ」
「さあ?『待て』って聞こえます」
走ってくる人影が近づいて私にも見えた。王太子、宰相子息、騎士団長子息、神官長子息、それから弟である公爵子息だ。
王太子が先頭を走っている。あら、意外と足が速いのね。
「いつもの面倒な仲間達じゃない。いやよ。明日ちゃんと悪役令嬢やれって話でしょう?その役はどうでもいいわ」
「ですよね」
3人で話しているうちに転移の準備ができたようだ。足元の魔法陣が虹色に光りだす。
「待っ……!」
王太子が驚愕の顔で手を伸ばしてきた。乱れた息に取り繕っていない表情。私の前ではいつも不機嫌そうにしていた元婚約者の顔をしみじみと眺める。
魔法陣の光に包まれながら、「そんな顔もできたのねぇ」となんだか場違いなことを考えていた。
――悪役令嬢らしいけどそんなことはどうでもいい。
お読みいただきありがとうございました。




