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歌い手令嬢の鎮魂歌~悪役令嬢らしいけどそんなことはどうでもいい  作者: るんた


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公爵令嬢視点4

続きを開いていただきありがとうございます。

「――始めましょう。此処で待っていて」




 靴を脱ぎ、暗闇に向かい裸足で歩き出す。湿った柔らかい草の感触が心地よい。中程で立ち止まると、離れた場所に控えているオトとリツが手にしていた灯りを消した。


 辺りが星明かりの闇に沈む。


 目を閉じる。深く息を吸い、慎重に音に変える。



 ――――♪



 前世と今世、こんなに姿が違うのに不思議と声は変わらない。


 先ず紡ぐのは太古から変わらないもの。広がる空、流れる水、輝く緑の森、丘を駆ける風。走り回る子供の記憶。晴れた日の心地よさ。遠くまで届くよう、風に乗せて。


 柔らかい風が吹き髪が舞い上がるのを感じる。目を開くと蛍の様な小さな光が無数に集まっていた。光達はふわりふわりと心許なく揺れている。……きいてくれた。


 その場で高く跳ね、両足で着地する。



 ――――ドン!!!!



 地面を震わす音が鳴り響いた。跳ねるように歩き出せば合わせて音が鳴る。



 ドン、ドン、ドン。ドン、ドン、ドン。ドン、ドン、ドン――。



 鼓舞するリズム。勇ましく、迷いなく、拳を握って、何かを願うように。


 小さな光が動き出し視線の高さに集まってくる。輝きが増す。


 体全体を揺らす。動きに合わせて様々な音が重なっていく。拳を突き上げて空に叫ぶ。



 ――――うおおぉおぉぉおおお!!!!



 私の声ではない。大勢の男達の雄叫び。歌声が重なる。


 戦場を駆け抜ける。勇敢に、怯まず。臆せず。時に罪に震え、嵐が来るのを願う。それならば戦が終わるのではないかと。祈りながらもまた自分を鼓舞する。


 全身が熱く重力を感じないように軽い。恍惚に流されるまま一心に歌い続ける。



 気が付けば、私の声だけになっていた。



 澄んだ空気を乱れた息が揺らす。


 深く呼吸してから、体を起こし周囲を見回した。


 幾百幾千の兵士達が倒れている。彼らは闇に沈み、薄っすらと光り透けて見える。


 静かで重い悔悟の記憶に息を吞む。竦みそうな心を奮いたたせ足を踏み出す。

 彼らの間をゆっくりと歩き、仰向けに倒れている兵士の顔を見下ろした。若い男だ。視線が合っているようだがこちらを見ていない。


 彼は何を思っているのだろう。瞳を覗き込んで記憶を手繰る。彼は王都から離れた街のパン屋の青年で、故郷に恋人を残していた。



 ――――♪



 自然に旋律が紡がれる。あふれだす思いが歌になっていく。


 会いたい。帰りたい。約束した。共にパンを焼く。毎日笑わせる。怒らせる。けど泣かせない。幸せにする。……約束したのに。幸せであってほしい。……自分が、したかった。


 青年の愛は穏やかで明るい。歌いながら哀しみの色が濃くならないように視線を上げる。どうか、彼の記憶が幸せなものでありますように。


 気が付けば夜空にも小さな光が無数に浮かんでいた。帯状に連なって地上に降ってくる。まるで天の川から星が落ちてきているよう。

 地上の光達もまた玉の形になっていた。


 やっと会える。


 両手を広げて地上の光達を空に押し上げた。幾千幾万の光が一斉に舞い上がる。



 ――――♪



 これが最後の歌。丁寧に。祈りを込めて。彼らが幸せでありますように。願いが叶いますように。平和でありますように。


 地上と夜空の光達がまじりあい楽し気にくるくる回る。暫く辺りを照らした後、やがて夜空に吸い込まれるように消えていった。


 残された光の残滓が粉状になって静かに地上に降りかかる。


 辺りがまた星明かりの闇に包まれた。








お読みいただきありがとうございました。

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