孤独な天才の咆哮と、厚き「不仲」の壁
王都の北嶺エリア。魔力嵐の中で救助を待っていた生徒たちの前に、一人の騎士が舞い降りた。
炎熱家配下のビィ家が三男、カイル。弱冠十九歳にして、この若手世代では五指に入る実力者である。
「助かった……! さすがカイル様、そして指示を下したアルト王子!」
救助された生徒たちが歓喜の声を上げる中、カイルだけは一人、嵐の去った空を睨みつけていた。
(……おかしい。おかしいだろう、これは)
カイルは震える手で魔導端末を確認する。
自分がこの現場に到着するまでのルート。他家との魔導通信の切り替え。そして、自分が最も動きやすいように事前に調整されていた「予備の魔力溜まり」。
すべてが、まるで**「自分がここに来ることを、誰かが一時間前から知っていた」**かのように噛み合っていた。
(アルト王子にこんな緻密な計画が立てられるはずがない。……だとしたら、一体誰が……?)
カイルの脳裏に、学園で見かける三人の令嬢の姿が浮かぶ。
だが、即座に打ち消した。彼女たちは互いの顔を見るのも嫌い、視線が合えば火花を散らす「犬猿の仲」なのだ。
「カイル、どうかしたのかい? 浮かない顔をして」
後から合流した同僚の騎士に、カイルは思わず詰め寄った。
「なあ、お前は気づかないのか!? さっきの指示系統の切り替え、あんなの現場の判断じゃ不可能だ。……もしかしたら、三公爵家は裏で繋がっていて、すべてを掌握しているんじゃないのか!?」
一瞬の静寂。
次の瞬間、同僚は腹を抱えて爆笑した。
「ははは! お前、疲れすぎて頭が沸いたか? あの三人が協力? 国家転覆の陰謀論より現実味がないぞ。……第一、彼女たちは今、学園で『地獄のお茶会』の真っ最中だ。あんなにピリピリした空気の中で、誰が外の救出劇のパズルを解くっていうんだ?」
「……しかし、この完璧なタイミングは――」
「偶然だよ、偶然! 王子の強運か、俺たちの運が良かっただけだ。さあ、帰ってデミグラス煮込みでも食べようぜ!」
カイルは唇を噛んだ。
周囲の誰もが、目に見える「不仲の芝居」を真実だと信じ込んでいる。
真実の断片に触れることができたのは、カイルにそれを察知できるだけの「一流の才能」があったからこそ。だがその才能ゆえに、彼は誰にも信じてもらえない孤独な深淵に立たされていた。
【同時刻・三令嬢のサロン】
「……よし、カイル君の部隊、無事に帰還したね」
レイカが氷のモニター(隠密仕様)を消し、満足げに伸びをする。
「カイル……あの子、少し勘が良すぎるわね。私たちの配置に違和感を覚えたみたい」
メルカが、手元の書類を「闇」で焼却しながら呟いた。
「いいじゃない、そのくらい優秀な方が。……まあ、彼がどれだけ叫んだところで、私たちの『不仲』という最強の防壁は崩せないわよ。世の中、信じたいものしか信じないんだから」
ライカが不敵に笑い、エルに新しいお菓子を催促する。
「……あの、ライカ様。カイル様、すごく悩んでるみたいですけど……」
エルが恐る恐る尋ねると、ライカはエルの頭をポンと叩いた。
「大丈夫よ、エル。彼が本当に『真実』に辿り着く頃には、彼自身もこの『隠蔽システム』の歯車として取り込んじゃえばいいんだから。……ねえ、エルみたいに?」
エルの背中に、冷たい汗が流れた。
三令嬢は「消さない」。
ただ、真実に近づきすぎた才能を、逃げ場のない「共犯者」という檻に閉じ込めるだけなのだ。




