国家の「頭脳」と「手足」――有能すぎる秘密会議
表向きは学園の視察を終え、優雅に談笑しているはずの三令嬢。しかし、その隔離されたサロンの空気は、精密機械のように張り詰めていた。
「――以上が、各領地の魔導通信網整備の進捗よ。例年より三割ほど早いわね」
メルカが手元の羊皮紙を置き、冷徹に、しかし効率的に報告を終える。
そこへ、雷鳴家付のナギが、一枚の火急の書状を持って現れた。
「失礼します。王都外の北嶺エリアから、学園に通う低学年層の生徒三名による救助要請が入りました。局地的な魔力嵐に巻き込まれ、足止めを食らっているようです」
通常、こうした「個別の救助」は現場の騎士団か、準公爵家の配下である実務爵位持ち――『実行補佐官』たちが独自に判断し、処理する案件だ。だが、今年は五十年に一度の儀式が重なり、全リソースが限界まで稼働していた。
「忙しいわね。ナギ、実行補佐官たちの配置状況は?」
ライカが尋ねる。
「はい。冷氷家の下に付いているバロン家、および炎熱家配下のビィ家は、現在儀式用の魔導具運搬の護衛に回っています。雷鳴家のアルト(※注:王子の名と被るため紛らわしいが別の騎士)は、氾濫した川の堤防強化を終えたばかりで魔力残量が二割を切っています。現状、即応できる『一流』の手が空いていません」
「……あちゃ〜。完全にパズルだね、これ」
レイカが呆れたように言いながら、テーブルの上に氷で領地の全図を描き出した。
「メルカ、西の街道整備を一時中断させて、そこにいるビィ家の三男を動かせる?」
「無理よ。あそこを今止めると、明日の物流が滞るわ。……それなら、こうしましょう。ライカ、あなたのところの通信担当に、メルカ領の補佐官に『伝言』を送らせて。指示系統を一時的に借りるわ」
「いいわよ。……えーっと、そうね。雷鳴家の伝令が冷氷家の物資輸送に合流して、余った一人を救助に向かわせる。それならロスは最小限ね」
三人の相談は、わずか数十秒で終わった。複雑な国家のリソース配分が、まるでオセロの石をひっくり返すような手軽さで最適化されていく。
「……で、これ、誰が指示したことにする?」
レイカの問いに、メルカが冷たく微笑む。
「当然、アルト王子(デミグラス王子)よ。彼が『偶然』現場の窮状を知り、騎士たちに『勇敢な決断』を促したことにしましょう。準公爵たち、現場の騎士にはそう伝えさせて。……王家の株を上げておけば、私たちの自由時間への干渉も減るわ」
「決まりね! エルちゃん、各所への伝達、一分で終わらせて」
「……はいっ! 承知しました!」
エルは魔法ペンを走らせながら、もはやツッコミを通り越して畏怖の念を抱いていた。
(……この人たち、学園でお茶してる間に、国中の人員配置をパズルみたいに組み替えてる。しかも、その手柄を全部あのポンコツ王子に押し付けて、自分たちの『存在』を消す気だ……)
準公爵家の下に付く、本来なら国家の英雄になれるはずの一流の若手たちが、彼女たちの「効率」の名の元に、影の歯車として完璧に回されている。
「エル様、ぼんやりしないでください。伝達が三秒遅れています。その遅れで救助される生徒の不安が三パーセント増えますよ」
冷氷家のシズクが、表情一つ変えずにエルの仕事をチェックする。
「うっ、……すみません!!」
「裏方」たちの本当の戦いは、聖女の微笑みよりもずっと鋭く、そして苛烈なものだった。




