完璧なる事後報告と、少女たちの「反省会」
「お疲れ様、みんな! あー、肩凝ったぁ!」
裏の隠し部屋に戻った瞬間、レイカが公爵令嬢としての仮面を投げ捨て、ソファにダイブした。続いてメルカが優雅に、ライカが情熱的にそれぞれの定位置へ。
そこへ、お茶会の戦場を共に生き抜いた準公爵令嬢たちが、一仕事終えた晴れやかな顔で現れる。
「お嬢様方、本日の『演出』も完璧でした。……エル様、冷たいタオルの準備を」
「……はい、ただいま」
冷氷家付のシズクが、レイカの首筋にそっと冷えたタオルを当てる。
続けて、炎熱家付のテラがメルカの前に、一通の報告書を置いた。
「メルカ様。お茶会の最中、ルル様が光魔法でケーキを等分しようとした際、余波でテラスの欄干にヒビが入りかけましたが……」
「ああ、あの瞬間ね。テラ、あなたが土魔法で補強したのが見えたわ。助かったわよ」
「いえ。万が一に備え、あらかじめ欄干の強度を三倍に上げておいたのですが、それでも危ういとは……。その後、私の独断で欄干を『古びた風合い』に偽装し、元からあったヒビのように見せておきました。公爵家の威厳を損なう形跡は一切残っておりません」
テラの淡々とした報告に、メルカは満足げに頷く。
「完璧ね。壊れたことを隠すより、最初から壊れていたことにする方が、不自然な修復跡を疑われなくて済むわ」
そこへ、雷鳴家付のナギが、少しだけいたずらっぽく笑いながらライカに近づいた。
「ライカ様、アルト王子が転びそうになった際の風のサポートですが。私の方で少し気流をいじり、王子が『自分の意志で踏みとどまった』ように感じさせておきました。彼の自尊心を守りつつ、醜態を晒さないための微調整です。……少々過保護すぎましたでしょうか?」
ライカは差し出されたスコーンを頬張りながら、ナギを見上げた。
「ううん、ナギ。それは良い判断だわ。……でもね、次はもう一捻り、王子が踏みとどまった勢いで『ルルちゃんを抱きとめる』方向に気流を向けてあげたら、もっと面白かったかもね?」
「なるほど、それは盲点でした。次回の課題にいたします」
側近たちは、三令嬢の意向を尋ねに来ているのではない。
「こうして、こう解決しました」という事後報告に来ているのだ。彼女たちもまた、十二歳で卒業した「準チート級」の神童。三令嬢が何を望んでいるかを、言わずとも理解し、先回りして処理を完結させている。
その様子を横で見ながら、エルは一人、震えていた。
(……この人たち、『小さな問題』の解決レベルが国家機密なんですけど。欄干を瞬時に古びさせる魔法とか、気流で恋のフラグを立てる調整とか……普通のお茶会にどれだけのリソース注ぎ込んでるの!?)
「エルちゃん、どうしたの? 怖い顔して。あ、スコーン食べたい?」
レイカが能天気にスコーンを差し出してくる。
「……いただきます。レイカ様、あの……一つお伺いしても?」
「ん?」
「さっき、アルト王子が『デミグラスソースが……』って言いかけた時、皆さんの殺気が一瞬だけ本物に見えたのは気のせいでしょうか……」
三人は一瞬だけ動きを止め、それから揃って視線を逸らした。
「……あんなに『デミ・グラース家』の名前を略すなと言っているのに、あの王子ったら。ソースが食べたくなっちゃったじゃない」
「私もよ。今夜の夕食、デミグラス煮込みに変更させるわ」
結局のところ、三強を一番揺さぶっているのは、国家の危機ではなく王子の「名前の響き(食欲)」なのだった。




