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月例・表お茶会――戦慄の30分一本勝負

学園の中庭、一段高いテラスに設置された特設会場。

そこは、周囲に何重もの近衛兵と「表向きの」結界魔導師が配置され、一般生徒は10メートル以上近づくことすら許されない「聖域にして戦場」だった。

「……本日も、あのお茶会が始まってしまったわね」

「ああ。見るがいい、空が三家の魔力に当てられて、どす黒く淀んでいる……」

遠巻きに眺める生徒たちが震える中、テラスの中央では、優雅に、そして殺気(演技)を孕んだ三公嬢が対峙していた。

「……退屈だわ。わざわざあなたたちの顔を見るために、貴重な三十分を割くなんて」

レイカが、ティーカップの中身を一瞬で氷像に変えながら、冷酷に言い放つ。

「それはこちらのセリフよ、レイカ。あなたの冷気で、せっかくの茶葉が泣いているわ」

メルカが、手元のカップから蒸気を立ち上らせる。その熱は、実は背後でアルト王子が「緊張で震えてこぼしそうになった紅茶」を瞬時に蒸発させ、シミになるのを防ぐための精密操作だ。

(……始まった。30分限定の、国家級サバイバル!)

給仕を装って控えるエルは、秒刻みのスケジュール表を頭の中で展開していた。

かつては1、2時間行われていたこの茶会。だが、側近たちの胃が限界を迎え、さらに三令嬢が「素を隠し続けるのが面倒になった」結果、現在は**「30分で全ての政治的牽制と介護を終わらせる」**という超強行軍に短縮されている。

「お二人とも! そうやって睨み合っていては、せっかくのデミグラスソース……あ、いえ、デミ・グラース家御用達のスコーンが冷めてしまいますよ!」

空気を切り裂くように、アルト王子が明るく(そして見当違いな方向に)声を張り上げる。

ルルもその隣で、無垢な笑顔を振りまいた。

「そうです! レイカ様、メルカ様、ライカ様! 私、皆さんが仲良くなれるように、友情の魔法(QOL向上用)をかけますね!」

ルルが杖を振り上げた瞬間、エルと準公爵令嬢たちの間に戦慄が走る。

(マズい、あの子、また無意識に広域目潰しレベルの光を放とうとしてる!)

「……やかましいわ。少し頭を冷やしなさい」

ライカが即座に立ち上がり、ルルの足元に微弱な衝撃波(雷)を走らせる。

ルルが「きゃっ」と体勢を崩した隙に、準公爵ナギが風で光の指向性をねじ曲げ、テラが土魔法でその魔力を地中に逃がした。

傍目には**「ライカが聖女を攻撃し、聖女の魔法が失敗した」**ように見える完璧な連携。

「アルト王子、あなたの婚約者はしつけがなっていないようね」

メルカが冷たく言い放つ。その裏で、彼女はアルトが椅子の脚に引っ掛けそうになっていた足を、地脈操作でそっと戻してあげていた。

「ひぃっ! も、申し訳ありません! ルル、僕の陰に隠れるんだ!」

「アレス様、お優しい!」

(……よし。これで15分経過。残り15分!)

エルは時計を確認する。この30分という短時間には理由がある。

あまりに長引くと、三令嬢の「素」が出始め、レイカがうっかり「そのお菓子一口ちょうだい」と言い出したり、ライカがルルの頭を撫で始めたりするリスクが高まるからだ。

「……話は終わりよ。次回の視察まで、せいぜいその無能な頭を磨いておくことね」

開始から正確に30分。レイカが席を立つ。

それが「お開き」の合図だった。

三人は、互いに一瞥もくれず(という演技で)、それぞれの派閥の方向へと去っていく。

周囲の貴族たちは「今日も凄まじい緊迫感だった……」「三家の溝は深まるばかりだ」とメモを取り、満足げに解散していく。

(……ふぅ。今月も、なんとかなった……)

エルが冷汗を拭ったその瞬間、背後から小声が聞こえた。

「……ねえエル、今の退席のタイミング、格好良かったでしょ? あとで、さっきのスコーン、裏の部屋に持ってきて。3人で分けるから!」

ライカの、情熱に満ちた(食いしん坊な)囁き。

エルは天を仰いだ。

国家を揺るがす30分間の真実は、結局「早くみんなで内緒のおやつを食べたい」という少女たちの願いに支えられていたのだ。


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