放課後の「偽装」ティータイム
邪神を解体し、花火の燃料へと変えた翌日。
学園の専用サロンには、何事もなかったかのように優雅なティーカップの音が響いていました。
「……ねえ、エル。このスコーン、少し焼きすぎじゃない? 表面のサクサク感が、昨日の邪神の外殻を砕いた時の感触に似ていて、なんだか落ち着かないわ」
レイカが不満げにスコーンをつつきます。
「申し訳ございません、レイカ様! すぐに焼き直させます!」
「いいわよ、そこまでしなくて。……それよりエル、例の『庭掃除』の報告書、アルト王子にはどう伝わったの?」
メルカが、学園の公式広報誌に目を通しながら尋ねます。そこには、昨夜の邪神消滅に伴う微かな地響きについて、「王子の騎士団が地下道のネズミ退治を徹底した際の余波」という、あまりにも情けない理由が掲載されていました。
「はい。王子は『僕の剣圧が地下深くまで届いてしまったか!』と、いたくご満悦で、今は中庭で後輩たちにその”剣圧のコツ”を熱心に語っておられます」
「……ふふ、相変わらずおめでたいわね。おかげで助かるわ」
ライカが楽しげに笑いながら、エルの手元を覗き込みました。
エルは今、三令嬢から預かった「別の」重大な任務に追われていました。それは、**「邪神の魔力から抽出した花火の火薬を、いかにして安っぽい普通の花火に見せかけるか」**という、極めて高度な偽装工作です。
「エル、その火薬に少しだけ『硫黄の臭い』を混ぜておいてね。あまりに綺麗な光が出すぎると、カイル君あたりが『これは神代の魔力だ!』って騒ぎ出すから」
「……承知いたしました。……ところで皆様、カイル様の件ですが。彼は今、昨日の地響きを独自に調査しようとして、ナギ様が用意した『偽のネズミの巣』にまんまと誘導され、全身泥だらけになって地下を這い回っておりますが……」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、サロンに令嬢たちの気品ある(しかし少し意地の悪い)笑い声が弾けました。
「あはは! 天才カイル君がネズミの巣を大捜査? 傑作ね!」
「いいじゃない。彼にはそのまま、”王都の衛生管理の英雄”にでもなってもらいましょう」
そんな平和な会話の最中、側近のシズクが静かに部屋に入ってきました。その手には、学園の購買部で買ってきたばかりの「庶民派のキャラメル」が握られています。
「お嬢様、頼まれていた『庶民の味の研究材料』です」
「ご苦労様。……さあ、エル。カイル君には悪いけど、私たちはこのキャラメルを使って、次の新作スイーツの会議をしましょうか。邪神の魔力よりも、このキャラメルの配合比率の方が、今の私たちには重要な問題なんだから」
世界を滅ぼす危機よりも、今日のおやつの味を。
エルの書く日誌には、今日も「平和な放課後、特記事項なし」という一文が、偽りなく刻まれていくのでした。




