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世界の掃除当番――「残りあと5、6個だっけ?」

邪神が封印された玉座の前で、レイカが指先で適当に空中の魔力を弾きながら、記憶を辿るような仕草をした。

「……ねえ、メルカ。こういう『面倒な塊(邪神)』って、あと世界にいくつ残ってたっけ? 5個? 6個くらいあったわよね」

「そうね、たしか南の海の底に1つと、極北の永久凍土の地下に2つ……。あ、先月ライカが暇つぶしにお散歩へ行った時に1つ見つけて、勝手に消しちゃったから、正確にはあと5個かしら」

メルカが、まるで「冷蔵庫の中の卵の数」を数えるような手軽さで、世界のパワーバランスを語る。

「あー、あれね! あの時はついでに地脈を整えておいたから、しばらくは大丈夫だと思うよ。でも、こういうのが残ってると五十年の儀式の時にノイズになるし、早めにお掃除しておかないと面倒なことになるわよね」

ライカが、震えている邪神の頭(のような部分)を、ポンポンと軽く叩く。その「叩く」衝撃だけで、邪神の周囲に張られていた神話級の封印結界が、ガラスのように砕け散った。

「…………(絶句)」

エルは、もはや恐怖を通り越して、宇宙の深淵を覗き込んだような虚無感に襲われていた。

準公爵家の三人も、静かに顔を見合わせる。

(……準公爵である我々ですら、存在すら知らされていなかった世界の禁忌。それを、お嬢様方は『お掃除対象』としてリストアップされていたのか……)

「ナギ、シズク、テラ。さっきも言ったけど、これ(邪神)の魔力は抽出して花火の燃料にするから。外殻の殻(依代)は、メルカの影に放り込んで、後で適当な魔石に再構成しておいて」

「……御意に。一滴も漏らさず、回収いたします」

ナギたちが、まるで手慣れた業者が大型家具を解体するように、邪神の解体作業に入る。邪神は最後に「ア、ア……」と、この世の終わりのような呻き声を上げたが、レイカが「うるさいわよ」と一瞥しただけで、その存在の根源から沈黙させられた。

「さあ、お掃除一丁上がり! 次の『汚れ』を見つけるのは、また来月でいいわよね。……エル、戻ったら今の作業内容を報告書にまとめておいて。『庭の古い根っこを掘り起こして、肥料にした』って感じでいいわ」

「……『邪神を花火にした』とは書かないんですね……」

「当たり前じゃない。そんな物騒なこと書いたら、アルト王子がまた『僕も邪神退治に行く!』って言い出して、私たちの掃除の邪魔になるでしょ?」

エルは悟った。

歴史の裏側、英雄たちが血を吐きながら辿り着く「神話の真実」は、彼女たちにとっては「不燃ゴミの日」の予定表と同じ程度の価値しかないのだということを。

「……はい。報告書には、『お庭のメンテナンス完了』と記載しておきます……」

エルの震える声が響く中、十分前まで「世界の終わり」を予感させていた最下層は、ただの「空き部屋」へと変わっていった。


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