裏お茶会の本音と「月一の試練」
「……あはは! 今日のアルト王子の土下座、見た!? あの膝のつき方、過去最高にキレがあったよね!」
レイカがソファの上で足をバタつかせ、涙を浮かべて笑う。
エルの差し出した冷たいお茶を一口飲み、ようやく一息ついた。
「あれはもはや芸術ね。ライカの『狂犬の演技』に、身体が勝手に反応しているレベルだわ」
メルカが、手元のクッキーを優雅に口に運びながら同意する。
「ちょっと、私のせいみたいに言わないでよ。私はただ、彼のマントが引っかからないように風を送ってあげただけ。……まあ、結局自分で踏んで転んでたけど」
ライカが不服そうに唇を尖らせつつも、どこか誇らしげだ。
「でも、次はもっと大変だよ。来週は……例の**『月一の定例茶会(表)』**でしょ?」
レイカの言葉に、部屋の空気が少しだけ「仕事モード」に切り替わる。
それは、学園のテラスを貸し切り、三公爵家が一同に会して「険悪な雰囲気」を世間に見せつけるための、国家的なデモンストレーション。通称「地獄の踏み絵」だ。
「そうね。前回はレイカがテーブルを凍らせすぎて、学園長が裏で泣いていたわ。今回はもう少し『静かな殺気』で行きましょう」
メルカが冷静に、次回の「演技構成」を練り始める。
「賛成。アルト王子とルルちゃんも呼ぶんでしょ? あの二人、あのお茶会を『三人の仲を深める親睦会』だと思って、毎回特等席でニコニコしてるのが一番の強敵なのよね……」
「わかる! 私たちがどれだけ鋭い視線をぶつけ合っても、ルルちゃんが『このケーキ、皆さんで切り分けましょう!』って、聖なる光でケーキを粉砕……じゃなくて、等分しようとするし」
三人は、想像しただけでどっと疲れが出たように溜息をついた。
周囲の貴族たちは、そのお茶会で「誰がどの席に座るか」「誰が先に口を開くか」を必死に分析し、派閥の動向を探っているが、三令嬢の悩みはもっと低次元なところにある。
「エル、来週の『表』の準備、ナギたちと連携して進めておいて。特にアルト王子が紅茶をこぼしても、ルルちゃんのドレスに染みがつかないような『撥水結界』は二重にお願い」
「……畏まりました、ライカ様」
部屋の隅で、エルは深く頭を下げた。
(……月一の地獄の茶会。世界が『三家の決裂』に怯えるその裏で、私たちは王子の粗相を防ぐために魔導回路をフル稼働させる。……この国、本当にこれでいいのかな……)
エルの心のツッコミは、今日も豪華なシャンデリアに吸い込まれて消えていった。




