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新米主導・魔宮調査――「裏方」の英才教育

「さあ、エル。カイル君の監視はナギの部下に任せて、次に行くわよ。……これ、一週間前に報告が上がった『新緑の迷宮』の調査資料」

ライカが、苺のタルトを飲み込みながら、分厚い羊皮紙の束をエルの前に置いた。

「私が主導……ですか? でも、こういうのって普通、王都の調査団とか、騎士団が行くのでは……」

「あんなのに行かせたら、国宝級の遺物を壊すか、魔物の生態系をめちゃくちゃにして帰ってくるだけよ」

メルカが、手元の魔導タブレットでダンジョンのエネルギー波形を表示する。

「それに、今回のダンジョンは少し『質』がいいわ。エルの魔力操作を鍛えるのにちょうどいい難易度よ。……いい? 今回、私たちは一切手を出さないわ。ナギたちも、エルの指示がない限り動かない。あなたがこの迷宮を『安全かつ、世間にバレないよう』に攻略してきなさい」

「……え、えええっ!? 私一人で……いえ、準公爵様たちを私が指揮するんですか!?」

エルは戦慄した。

準公爵家の三人は、すでに完璧な装備を整え、エルの後ろで静かに跪いている。

「エル様、指示を。……あなたの判断が、私たちの『掃除』の効率を決めます」

シズクが、氷のように鋭い瞳でエルを見つめる。

【新緑の迷宮・内部】

数時間後。エルは冷や汗を流しながら、ダンジョンの最深部へと進んでいた。

「な、ナギ様! 右から魔力の高まりが……! 多分、隠し部屋のトラップです! 風の結界で封じ込めてから、テラ様が地脈を固定してください!」

「御意」

「承知いたしました」

エルの叫びに対し、二人は寸分の狂いもなく動く。

エルは気づき始めていた。三令嬢が自分を主導にした理由。それは、単に攻略させるためではない。「圧倒的な戦力(準公爵たち)」を、どう無駄なく、どう世間に悟られずに運用するかという、支配者としての「盤面の動かし方」を叩き込もうとしているのだ。

「……そうだ、シズク様! その倒した魔物の残骸、凍らせて地下深くへ埋めてください。後から来る調査団には『最初から何もいなかった』と思わせるんです」

「賢明な判断です、エル様。……お嬢様方も、今の判断には満足されるでしょう」

シズクが薄く微笑む。

【同時刻・三令嬢の秘密サロン】

氷のモニターには、泥だらけになりながらも必死に指揮を執るエルの姿が映っていた。

「あら、意外と筋がいいじゃない。魔物の残骸の隠蔽なんて、教えなくても自分から言い出したわよ」

レイカが、面白そうに目を細める。

「ええ。エルの才能は『平均以上』なだけだけど、そのぶん『普通の人間の感覚』を持っている。……それが、私たちのような規格外を使いこなすには一番必要な資質なのよ」

メルカが、エルの成長を満足げに記録する。

「カイル君は『気づく天才』だけど、エルは『隠し通す天才』に育てなきゃね。……さあ、最深部のボスが出てくるわよ。エルがどうやって、あの化け物を『最初からいなかったこと』にするか、見ものね」

ライカは楽しげに、新しい紅茶を淹れさせた。

エルの肩には、国家の秘密と、最強の部下たちの命運、そして三令嬢の「期待」という、とてつもなく重い荷物が乗っていた。

だが、その重みこそが、彼女をただの「巻き込まれた少女」から、真の「裏の支配者の一員」へと変えていく。


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