選別者の系譜――「英雄」か「歯車」か
「……カイル君を見ていると、昔いたあの『天才魔導師』を思い出すわね」
レイカが、カイルの潜入映像を眺めながら、懐かしそうに目を細めた。彼女が指しているのは、かつて「一万年に一人の神童」と謳われた、ある魔法使いのことだ。
「ああ、あの子ね。……彼はカイル君とは違って、真実に近づくたびに『自分の才能への酔い』が勝ってしまったわ」
メルカが冷たくお茶を啜りながら、過去の記録を脳内で紐解く。
その魔法使いも、かつて三令嬢の不自然な完璧さに気づき、独力で調査を進めていた。だが、彼女たちは彼が「秘密を共有するに値する精神性」を持っていないと即座に判断した。
「彼には、私たちが用意した『古代王の隠し財宝(偽物)』を与えて、そのまま辺境の魔導塔へ送ったんだっけ?」
「そうよ。架空の手柄と栄誉をたっぷりと与えたら、彼はすっかり満足して、一生を”自分が見つけた偽の歴史”の研究に費やすことに決めたわ。今も塔に引きこもって、私たちが書いた『偽の魔導書』を必死に解読しているはずよ」
それが、三令嬢による「慈悲深い排除」だ。
真実から遠ざけ、一生を虚構の栄光の中で幸せに終わらせてあげること。
「でも、今の『北衛軍の総将軍』は当たりだったわよね」
ライカが、少しだけ声を弾ませた。
数代前、カイルと同じように執念深く彼女たちの足跡を追い、ついには当時の準公爵令嬢たちの包囲網すら潜り抜けて、三令嬢の茶会にまで「乱入」してきた男がいた。
「あの時のライカ、凄かったわよね。『あら、お客様?』って言いながら、デコピンで彼を城の壁まで飛ばした後に、すぐに『次代の将軍、見ーつけた』って笑って」
「だって、あんなにボロボロになりながら、私たちの『隠蔽の綻び』を理論立てて説明されたら、もう身内にするしかないじゃない? ……彼は今、準公爵家の実働部隊を束ねる将軍として、私たちの代わりに血生臭い仕事を全部片付けてくれているわ」
彼こそが、彼女たちの「実力主義の選別」を勝ち抜き、世界の裏側を支える巨大な組織の歯車――つまり「幹部」へと昇進した成功例だった。
「……あの、皆様」
エルが、震える声で尋ねる。
「……カイル様は、どちらになる予定なのでしょうか……?」
三人は顔を見合わせ、それからカイルが「偽のアジト」で罠を回避し、隠し通路(テラが用意したもの)を見つけ出した瞬間を同時に見つめた。
「彼? ……彼は、あの魔法使いほど馬鹿じゃないし、将軍ほど脳筋でもない。……きっと、エルの直属の『上司』か『部下』、どちらかになるタイプじゃないかしら?」
「……(えええっ、私の同僚!?)」
エルの戦慄をよそに、三人は楽しげに未来を語る。
「彼には、もう少し『世界の闇』を味わってもらって、精神が折れるか、それともこの歪な平和を愛せるようになるか、じっくり見極めましょう。……さあ、彼が『教団の最高幹部(偽)』にたどり着くわよ。演出用の”絶望の魔力”、最大出力でお願い!」
過去の天才たちが辿った道。
一人は幸せな夢の中に、一人は血塗られた戦場に。
そしてカイルは今、そのどちらでもない「三令嬢の庭」という名の、最も逃げ場のない深淵へと足を踏み入れようとしていた。




