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慈悲の警告と、加速する誤解

王立魔導学園の式典。表向きはアルト王子の「オーロラ撃退」を祝う華やかな宴が催されていた。警備の指揮を執るのは、実務能力を買われた若手貴族たち。三令嬢はその場を彼らに任せ、サロンで「ある特異点」の監視を続けていた。

その頃、エルの心は揺れていた。あまりに鋭すぎるカイルが、このままだと「三令嬢の平穏(という名の支配)」に触れ、彼女たちの「身内」として取り込まれる……つまり、自分と同じ地獄の過労生活に引きずり込まれるのではないかと危惧したのだ。

「……カイル様」

式典の裏路地、人気のない回廊でエルはカイルを呼び止めた。

「エ、エル殿……? 聖女候補生のあなたが、なぜこんな場所に」

エルはフードを深く被り、ライカ直伝の「威圧の残滓」をあえて微かに纏わせて見せた。

「忠告に来ました。……カイル様、あなたは聡明すぎます。ですが、あなたが追っている”真実”は、あなたが思っているよりもずっと深く、暗い場所にあります」

カイルの背中に戦慄が走る。エルの声は震えていたが、それは彼には「世界の闇を知る者の重圧」に聞こえた。

「やはり、何かがあるのだな。あのオーロラも、地下の違和感も……!」

「これ以上、踏み込んではいけません。あの方々は……この国の光も影も、すべてを掌の上で転がしている。あなたが気づいたことさえ、すでに”あの方々”には筒抜けなのです。命が惜しければ、すべてを忘れ、平穏な騎士として生きてください」

エルはそれだけ言い残すと、霧のように姿を消した。彼女としては「本当に危ないからやめて!」という必死の親切心だった。

しかし、残されたカイルの瞳には、かつてないほどの決意の炎が宿っていた。

「……間違いない。王家すらも傀儡にし、この国の裏で糸を引く『邪悪な秘密結社』が存在する。聖女候補生の彼女ですら、あんなに怯え、警告を出すほどの……。俺がやらねば、この国は闇に呑まれる!」

カイルは拳を握りしめ、さらなる調査……三令嬢が「偽の手がかり」として用意した古代禁忌の文献へと、全力で突き進む決意を固めた。

【同時刻・三令嬢の秘密サロン】

氷の鏡には、鼻息荒く走り去るカイルと、物陰で「ふぅ、これで諦めてくれるはず」と胸を撫で下ろすエルの姿が並んで映し出されていた。

「――ぶっ!……くくく、あはははは! エルちゃん、最高! 逆効果にもほどがあるよ!」

レイカがソファを叩いて爆笑する。隣では、メルカが優雅に扇子で口元を隠しながら、肩を震わせていた。

「『あの方々には筒抜けなのです』……。ええ、その通りね。まさか目の前で実況中継されているとは、あの子たちも思わないでしょうね」

「エルのあの演技、少し私に似てきたんじゃない? 『世界の闇』っぽくて良かったわよ。……おかげでカイル君、完全にやる気に満ち溢れちゃったけど」

ライカが楽しげに、鏡の中の「監視データ」を更新する。

「ナギ、テラ。カイル君が次にたどり着く『偽の秘密結社のアジト』の準備はいい? ちゃんとそれっぽく、埃っぽくて不気味な感じにしておいてね」

「仰せのままに。エル様が植え付けた”恐怖”というスパイスのおかげで、よりリアリティのある『潜入捜査ごっこ』を楽しんでいただけそうです」

ナギたちが影の中で微笑む。

三令嬢にとって、エルの独断行動は計算外だった。しかし、それゆえに物語はより予測不能な「最高の喜劇」へと昇華されたのだ。

「さあ、エルちゃんが戻ってきたら、たっぷり可愛がってあげなきゃね。……『闇の伝道師』としての初仕事、お疲れ様って」

そう呟く彼女たちの瞳は、カイルが想像するどんな邪悪な組織よりも、圧倒的な「格」の差を持って輝いていた。


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