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選ばれし者の孤独と、見守る「怪物」たち

「……絶対に、おかしい」

真夜中の騎士団寮。カイルは一人、机に突っ伏して震えていた。

数時間前、王都を照らしたあの「オーロラ」。エルの流した公式発表によれば、成層圏の魔力塵による自然現象だという。

だが、カイルの五感は別の答えを弾き出していた。

あの光が弾けた瞬間の、鼻をつく「カビ臭い地下の匂い」。そして、一瞬だけ肌をなでた、あの地下道で感じたはずの「」の違和感。

(あの地下道は、魔力が『ない』んじゃない。あまりに巨大な魔力が凝縮されすぎていて、俺の感覚が『背景』だと誤認させられていただけだとしたら……?)

カイルは冷や汗を拭った。

もし自分の推測が正しければ、王都の地下には、あの魔将十三冠すら塵に変えるほどの「何か」が、地雷のように埋め尽くされていることになる。

「……おいカイル、まだ起きてるのか? 早く寝ろよ。明日はあの王子の『オーロラ撃退記念式典』の警備なんだからな」

同僚の呑気な声が響く。

カイルは確信した。この違和感を口にすれば、自分は「過労で精神を病んだ哀れな天才」として、最前線の僻地へ飛ばされるだろう。あるいは、もっと恐ろしい「何か」に消されるか。

(誰にも言えない。……俺だけが、この世界の『異常な平和』を知っているんだ)

カイルは、まるで巨大な怪物の胃袋の中にいるような心地で、震えながら目を閉じた。

【同時刻・三令嬢の秘密サロン】

「――あら。カイル君、やっぱり気づいちゃったみたいね」

レイカが、手元の氷の鏡に映る「寮で震えるカイル」の姿を見て、クスクスと笑った。鏡には、彼のバイタルサインや脳波の乱れまでが精密にグラフ化されている。

「ええ。地下道の『無』の違和感から、オーロラの正体まで……。点と点を結ぶ能力だけは、私たちの側近候補に並ぶレベルだわ。……惜しいわね、あと数年早く生まれていれば、私たちのチームに引き抜けたのに」

メルカが、手元のチェス駒(カイルを模したもの)を一つ進める。

「いいじゃない、泳がせておきましょうよ。彼みたいな『真実に怯える目』をした子が一人くらいいた方が、私たちの隠蔽工作も張り合いが出るってものよ」

ライカが、苺のタルトを頬張りながら楽しげに言った。

彼女たちは、自分たちの秘密が暴かれることを恐れてなどいない。むしろ、自分たちの作り上げた「完璧な嘘」という迷宮に、一人の天才が迷い込み、絶望する様子を最高級のエンターテインメントとして楽しんでいるのだ。

「エル、カイル君の監視レベルを『B』に上げて。彼がこれ以上深く潜ろうとしたら、適度な『偽の手がかり』を与えて、見当違いな方向に誘導してあげなさい。……例えばそうね、”古代王の亡霊の仕業”とか?」

「……承知いたしました。カイル様、また迷宮入りですね……」

壁際で控えるエルは、鏡の中のカイルに同情の視線を送った。

彼は今、自分が「孤独な真実の探究者」だと思っているだろう。だが実際は、三人の少女たちの退屈を凌ぐための、精巧な「観察対象おもちゃ」に過ぎないのだ。

「カイル様、可哀想に。……でも、気づかなければいいだけなのに。……あ、ライカ様、明日の式典用の『王子の剣が光る演出』、魔力出力を〇・三パーセント下げますか?」

「そうね、カイル君にバレないように、少しだけ『安っぽい光』にしておいて!」

世界で最も鋭い感覚を持つ騎士は、今夜も彼女たちの掌の上で、心地よく、そして絶望的に躍らされている。


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