天空を染める「言い訳」と、光速の隠蔽工作
その夜、王都の夜空に異変が起きた。
本来、地上に埋設されたはずの『絶対障壁ユニット』たちが、五十年の儀式が近づく月光に反応し、地下から凄まじい「聖なる光」を天に向かって放出し始めたのだ。
王城から立ち上る、天を突くような黄金の光柱。
深夜にもかかわらず、王都は昼間のような明るさに包まれ、人々は驚愕して窓を開けた。
「……ちょっと、ナギ! シズク! 地下のユニットが共鳴し始めてるじゃない! 予定より一週間早いわよ!」
サロンでくつろいでいたレイカが、窓の外の光を見て跳ね起きた。
「申し訳ございません! 月の引力による地脈の活性化が、想定を〇・〇八パーセント上回りました! すぐに抑制フィールドを展開します!」
ナギが風のように動き、テラと共に地下へ転送魔術で直行する。
だが、すでに光は王都中の人々が目撃してしまっている。このままでは「王城の地下に何かがある」とバレるのは時間の問題だ。
「メルカ、ライカ! 物理的な隠蔽は任せたわよ! エル、あなたは学園の魔導掲示板と騎士団の通信網をジャックして!」
「えっ、ジャック!? 私がですか!?」
「いいから早く! 理由は何でもいい、『ありえない自然現象』をデッチ上げるのよ!」
エルは震える手で魔導端末を操作し、三令嬢から送られてくる「もっともらしいデマ」を次々と公式記録として上書きしていく。
一方、ライカはバルコニーに飛び出し、指先から空に向かって漆黒の雷を放った。
「……はぁぁぁっ! 黄金の光を、無理やり七色に分散させるわよ! メルカ、熱量調整をお願い!」
「了解。……氷と炎、雷を混ぜて、空に『屈折現象』を引き起こすわ。……エル、準備はいい?」
「はい! ……えーっと、『本日は百年の一度の特殊な気象条件により、成層圏の魔力塵が発火した”極光”が観測されました。なお、この光を浴びると健康に良いという迷信がありますが、実際はただの光です”』……送信しました!」
数秒後。
黄金の一筋だった光柱は、三令嬢の強引な魔力操作によって空中でバラバラに砕け散り、王都の空を美しく、しかし禍々しいほどの色鮮やかな「オーロラ」へと変貌させた。
「……わぁ、綺麗……」
「本当だ。不吉な光かと思ったけど、あんなにカラフルなら、きっと吉兆に違いないな」
街の人々が感嘆の声を漏らし、恐怖が「観光気分」へと塗り替えられていく。
カイルたち騎士団も、「なんだ、ただのレアな気象現象か」と、エルの流した公式通知を鵜呑みにして警備を解いた。
数分後。地下の共鳴を力技でねじ伏せた側近たちが、汗一つかかずに戻ってきた。
「……鎮圧完了です。念のため、地下の全ユニットに『消音・消光・存在遮断』の術式を三重に追加しておきました」
「お疲れ様。……ふぅ、危なかったわね。あんなの見られたら、明日から調査団が地下に押し寄せてくるところだったわ」
レイカがソファに沈み込み、冷めたお茶を飲み干す。
エルは、オーロラが消えていく夜空を見上げながら、深い、深いため息をついた。
(……国家存亡の危機みたいな光を、力技で『ただのオーロラ』に書き換えるなんて……。しかも”健康に良い”っていう噂を先回りして否定して、余計な騒ぎを防ぐ徹底ぶり。……この人たちに、隠せない秘密なんてこの世にないんじゃないかな……)
「エルちゃん、お疲れ様。はい、これ、頑張ったご褒美の『オーロラ色のキャンディ』。さっきの光の残滓を固めて作ったから、魔力回復に効くよ」
「……ありがとうございます。……これ、一粒で街の魔導灯が一ヶ月分くらい灯りそうな密度なんですけど、黙って食べておきますね……」
王都の「平和な夜」は、少女たちの冷汗と超常的な隠蔽工作によって、今夜も守られたのであった。




