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異世界で使える、35歳営業マンのいい人戦略 ~せっかく生まれ変わったから、ハーレムくらい目指します~  作者: kammy


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第九話 リカリオン・ミリオン

リカに手を引かれ、レンは広場へ向かっていた。


 小さな手に握られた自分の手。


 レンは歩きながら、妙な感覚を覚えていた。


 リカの魔力だ。


 さっきからずっと感じている。


 量が多いわけではない。


 だが、妙に強く感じる。


 魔力が身体の中を流れている。


 その流れが、とても滑らかだった。


 まるで一つ一つの魔力を、自由自在に動かしているような感覚。


 レンはリカを見た。


 そして、こっそり鑑定する。


 ――リカリオン・ミリオン。


 五歳。


 人間。


 体力二十三。


 魔力百三十。


 スキル――魔力操作。


 ……百三十?


 レンは少し驚いた。


 自分の魔力は一九八〇。


 数字だけなら、リカの十倍以上ある。


 なのに、実際に感じる魔力はそんな単純な差ではない。


 むしろ、リカのほうがずっと扱い慣れているように感じる。


 レンはスキル欄を見る。


 魔力操作。


 ……これのせいか?


 魔力そのものが多いわけではない。


 でも、魔力を動かす技術が異常に高い。


 そう考えれば、この感覚にも説明がつく。


 そんなことを考えているうちに、二人は広場へ到着した。


 リカが足を止める。


 そして、レンのほうを振り返った。


「……ねえ」


「ん?」


「あなた、なんなの?」


「……何が?」


 レンは思わず聞き返した。


 リカは答えず、握っていたレンの手を見る。


「その手」


「俺の手?」


「うん」


 リカはレンの手をじっと見つめた。


「なんか変」


「変って言われても……」


 レンも自分の手を見る。


 三歳児の手だ。


 特に変わったところはない。


「普通じゃない?」


「そういう意味じゃない」


「じゃあ、どういう意味?」


「……わからない」


「わからないのかよ」


 思わず突っ込む。


 リカは少し困ったような顔をした。


「あなたの魔力」


「ああ……」


 レンはようやく理解した。


「そんなに変?」


「変」


 即答だった。


「すごく変」


「すごく……」


 レンは少しだけ苦笑した。


 自分ではもう慣れてしまっている。


 魔力一九八〇。


 最初は驚いたが、三年も付き合っていれば、それが自分にとっての普通になっている。


 しかし、他人からすれば違うらしい。


「リカのほうこそ、変だと思うけど」


「私?」


「うん」


「どこが?」


「魔力」


 リカが目を細める。


「……私の?」


「うん。そんなに多くないのに、すごく強く感じる」


「……」


 リカが黙った。


「違う?」


「わからない」


「また?」


「だって、自分では普通だと思ってるから」


 レンは少し考える。


 もちろん、鑑定では理由を知っている。


 魔力操作。


 だが、それを口にするわけにはいかない。


 鑑定を持っていることを知られたくないからだ。


「魔法、得意なの?」


 レンが聞く。


「うん」


 リカは素直に頷いた。


「本を読んで勉強してるの」


「魔法の本?」


「そう」


「詠唱とかも?」


「もちろん」


 リカは少し得意そうに胸を張った。


「正しく詠唱すると、魔力をきれいに動かせるんだよ」


「へえ……」


 レンは頷く。


 なるほど。


 魔法についてかなり勉強しているらしい。


 五歳でここまで魔力を扱える理由も、少しわかった気がした。


 ただ――。


 やっぱり不思議だ。


 魔力百三十。


 それなのに、あれほど強く感じる。


 やはり、魔力操作のスキルが関係しているのだろう。


 レンが考えていると、リカが口を開いた。


「ねえ」


「何?」


「あなたは?」


「俺?」


「魔法、使えるの?」


「うん」


「詠唱は?」


「……しない」


「え?」


「詠唱しなくても使えるよ」


 リカの表情が変わった。


「無詠唱?」


「たぶん」


「……」


 リカはしばらくレンを見つめる。


「無詠唱なんて嘘だよ」


「嘘じゃないって」


「だって、本に書いてあるもん」


「でも、俺はできる」


「……なんで?」


「わからない」


「また?」


「いや、本当にわからない」


 これは本当だった。


 レンは魔法の仕組みを、まだ完全には理解していない。


 ただ、想像すれば魔力が動く。


 それだけだ。


 リカは納得していない。


 レンも、リカの魔法についてまだわからない。


 お互いに相手のことが気になる。


 けれど、聞けば聞くほど疑問が増えていく。


「……なんなの?」


 リカがもう一度呟く。


「だから、何が?」


「あなたが」


「俺が?」


「そう」


「三歳の子供」


「そういうことじゃない!」


 リカが少し声を上げる。


 レンは首を傾げた。


「じゃあ、何?」


「……わからない」


「俺もわからないよ」


 リカがじっとレンを見る。


 レンもリカを見る。


 二人とも、しばらく何も言わなかった。


 レンは考える。


 やっぱり、この子は普通じゃない。


 魔力の量は少ない。


 なのに、魔力の扱いが異常に上手い。


 その理由は、おそらく魔力操作というスキル。


 そして――。


 リカも考えていた。


 この子は普通じゃない。


 まだ三歳なのに、どうしてこんな魔力を持っているのだろう。


 しかも、本人はそれを当たり前のようにしている。


 わからない。


 本当に、わからない。


 そのときだった。


「レン!」


 広場の入口から声が響いた。


 二人が同時に振り返る。


 そこにはレギオンが立っていた。


「こんなところにいたのか」


「父さん」


 レンが返事をする。


 レギオンは二人のところまで歩いてくると、レンを抱き上げた。


「そろそろ帰るぞ」


「うん」


 レンはレギオンの腕の中から、リカを見る。


 リカもレンを見ていた。


 何か言いたそうな顔をしている。


 けれど、結局何も言わなかった。


「またね」


「うん」


 それだけだった。


 レギオンに抱かれ、レンは広場を離れていく。


 腕の中で、レンはもう一度だけリカを振り返った。


 魔力百三十。


 魔力操作。


 そして、あの異常な魔力の流れ。


 やはり気になる。


 一方、広場に残ったリカも、遠ざかっていくレンを見ていた。


 あの魔力。


 あの無詠唱。


 どう考えても普通じゃない。


 結局――。


 二人とも、相手が何者なのか。


 まだ何もわかっていなかった。

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