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異世界で使える、35歳営業マンのいい人戦略 ~せっかく生まれ変わったから、ハーレムくらい目指します~  作者: kammy


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第七話 1歳 世界を知る

第7話 異世界の一年目


 レンは、一歳になった。


 まだ、まともに言葉を話すことはできない。


 歩くこともできるようになったが、長く歩けばすぐに転ぶ。


 しかし――中身は三十六歳。


 前世では三十五歳まで生きた。


 この一年間、レンはただ赤ん坊として過ごしていたわけではなかった。


 両親や使用人たちの会話を聞き、家の中を観察し、少しずつこの世界のことを理解していった。


 まず分かったのは、自分の家が思っていたよりもずっと特殊だったことだ。


 父、レギオン。


 母、ミレーユ。


 二人とも若い。


 そして、二人とも優秀だった。


 ある日のこと。


 父親が帰宅すると、使用人の一人が声をかけていた。


「お疲れ様でした、旦那様。今日も魔物が出たんですか?」


「ああ。小物が何匹かな。たいしたことはない」


 レギオンはそう言って笑った。


 レンは父親の顔を見上げる。


 魔物。


 この世界には、本当にいるらしい。


 最初はそれだけで驚いた。


 しかし、どうやらこの辺境では珍しいものでもないらしい。


 父親の仕事は、この地方の警備。


 辺境伯領にある町や街道を守り、魔物が出れば討伐にも向かう。


 そういう仕事をしているらしい。


 ある日、両親の会話から、父親の過去も知った。


 レギオンは、もともと子爵家の三男だった。


 三男ともなれば、当然家を継ぐことはない。


 成人すれば家を出て、騎士になる。


 本来なら、そのまま貴族としての立場を失っていたはずだった。


 ところが――。


「レギオン様は、昔から本当にお強かったんですね」


 使用人がそう話しているのを聞いた。


「まあ、運が良かったんだよ」


 父親は笑っていた。


 どうやら騎士団に入ってから頭角を現し、魔物討伐などでいくつもの功績を上げたらしい。


 その結果、国から新たに爵位を与えられた。


 それが、準男爵。


 自分自身の家を持つことになったのだ。


 領地はない。


 だから現在は、辺境伯領で仕事をしている。


 レンはそこまで聞いて、少し考えた。


 父さん。


 普通にエリートじゃん。


 しかも、かなりの。


 そして母親。


 ミレーユは、平民出身だった。


 しかし魔法の才能に恵まれ、宮廷魔術師にまでなったらしい。


 こちらも、かなり凄い。


 そんな二人が魔物討伐の任務で出会い、結婚した。


 両親の昔話を聞いていると、まるで物語の主人公みたいだった。


 ただ――。


「お父さん、今日は早かったね」


「ミレーユに会いたかったからな」


「もう」


 母親が笑う。


 そして二人は、レンの目の前で普通にキスをする。


 ……仲良すぎだろ。


 一歳児の目の前でやることか?


 まあ、俺は中身三十六歳だけど。


 そんな両親を見ながら、レンは思う。


 これだけ仲が良ければ、子供もできるよな。


 そして自分は、その子供だ。


 少しだけ、嬉しかった。


 魔力についても、少しずつ分かってきた。


 以前、自分の魔力が1200だったことは分かっている。


 しかし、それがどれほど凄いのかは知らなかった。


 比較対象がいなかったからだ。


 そこでレンは、鑑定を使って周囲の人間を観察するようになった。


 すると、だいたいの大人は80から120程度。


 父親だけが、明らかに違った。


 ――250。


 母親も――230。


 やっぱり両親は凄いらしい。


 さらに、魔法を使った後に鑑定すると、魔力が二十、三十と減っていることにも気づいた。


 なるほど。


 魔法を使うと、その分だけ魔力を消費する。


 当たり前のことだが、レンにとっては重要な発見だった。


 そして、自分の魔力を思い出す。


 1200。


 ……。


 父さんの、だいたい五倍。


 母さんの、だいたい五倍。


「……俺、やばくない?」


 もちろん、声には出せない。


 出せたとしても、一歳児が突然そんなことを言ったら大騒ぎになる。


 だからレンは、心の中だけで呟いた。


 そんなある日。


 両親に連れられて、初めて町の外へ出ることになった。


 そこでレンは、初めて見る乗り物に乗った。


 大きな車両が、何台も連なっている。


 しかし、前には機関車がない。


 代わりにいたのは――巨大な魔獣だった。


 魔獣の体には魔法具が取り付けられ、強化魔法が施されている。


 それが車両を引いて走っていく。


 強化魔獣列車。


 この世界では、それが長距離移動の主要な手段らしい。


 レンは窓から外を眺めた。


 石造りの建物。


 大きな城壁。


 馬車。


 騎士。


 商人。


 見た目だけなら、前世で見た中世ヨーロッパのようだ。


 だが、ところどころがおかしい。


 街灯のようなものが魔力で光っている。


 建物の中では魔法を使った道具が普通に使われている。


 温度を調整する魔法具もある。


 料理にも魔法が使われている。


 風呂もある。


 トイレだって水洗だ。


 文明としては、前世のイメージする中世とはかなり違っている。


 魔法がある。


 それだけで、文明の進み方がまるで違うらしい。


 レンは窓の外を眺めながら思った。


 なるほど。


 剣と魔法の世界。


 確かにそうなんだけど――。


 思っていたより、だいぶ便利だな。


 そして、もう一つ。


 レンはこの一年間で、魔法の練習も続けていた。


 きっかけは単純だった。


 魔力があるなら、使ってみたい。


 まずは体の中にある何かを動かしてみる。


 手。


 足。


 腹。


 どこにあるのかは分からない。


 ただ、意識を集中すると、体の中に何かがあることだけは分かった。


 それを動かす。


 少しずつ。


 少しずつ。


 そして――。


 ある日。


 小さな火が、指先に浮かんだ。


「……」


 レンは目を丸くした。


 成功した。


 火だ。


 魔法だ。


 そして思った。


 ……はいはい。


 テンプレね。


 想像して、魔力を流す。


 それだけで魔法が使える。


 なんとも分かりやすい。


 しかし、使ってみて分かったこともある。


 魔法を使えば、疲れる。


 魔力が減るからだ。


 だから、魔力を使い切るくらいまで練習して眠る。


 翌朝。


 少しだけ魔力が増えていた。


 1200だったものが、1203になっている。


 次の日は1207。


 その次は1212。


 劇的な変化ではない。


 だが、確実に増えている。


 どうやら、魔力を使って休むことで、少しずつ最大値が伸びるらしい。


 なら、やることは決まっている。


 魔法を使う。


 疲れる。


 寝る。


 また使う。


 レンは、黙々とそれを繰り返した。


 そして、もう一つ。


 この一年間で、レンには気になることがあった。


 鑑定だ。


 レンが何かを鑑定するたび、世界のことが少しずつ分かっていく。


 人の魔力。


 魔法の消費。


 物の名前。


 状態。


 便利すぎる。


 便利すぎるのだ。


 だからこそ、疑問に思った。


 これ。


 俺以外も使えるのか?


 しかし、周囲を見ていると、どうもおかしい。


 例えば、何か分からないものがあったとき。


 大人たちは専門家に聞く。


 調べる。


 人を集めて相談する。


 魔物についても、実際に見たり、過去の記録を調べたりして判断している。


 もし鑑定が誰でも使えるなら。


 もっと簡単に済む場面が、いくらでもあるはずだ。


 なのに、誰も使っていない。


 レンは考えた。


 もしかして――。


 鑑定って、俺しか使えないんじゃないか?


 まだ確信はない。


 一歳児の自分では、聞くこともできない。


 だから今は、観察するしかない。


 見る。


 聞く。


 考える。


 そして、仮説を立てる。


 前世の仕事でも、似たようなことはよくやっていた。


 情報が足りないなら、まず集める。


 いきなり結論を出さない。


 レンは小さな手を握った。


 異世界生活、一年目。


 分かったことは、まだ少ない。


 だが――。


 自分の両親はかなり優秀。


 自分の魔力は、その両親より遥かに多い。


 魔法は使える。


 しかも、使うほど少しずつ成長する。


 鑑定という、便利すぎる能力もある。


 そして、自分は準男爵家の跡取り。


 領地こそないが、父親は辺境伯領で重要な仕事を任されている。


 生活に困るような家でもなさそうだ。


 ……。


 これ。


 思っていたより、だいぶ当たりの人生なんじゃないか?


 レンはそう思いながら、父親に抱き上げられた。


「レン、楽しかったか?」


「……あぅ」


 まだ、まともな言葉にはならない。


 父親が笑う。


「そうかそうか」


 母親も隣で笑っている。


 その光景を見ながら、レンは思った。


 まずは、もっとこの世界を知ろう。


 そして――。


 もっと魔法を使えるようになろう。


 まだ一歳。


 時間なら、いくらでもある。


 五歳になる頃には。


 どこまで強くなっているだろうか。


 レンは、そんなことを考えていた。

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