第六話 鈍感
ハーレムを目指す。
そう決めたところで、ふと思う。
そもそも、異世界ものの主人公たちはどうやってハーレムを作っているんだろう。
俺も前世では、それなりに読んでいた。
異世界に転生して、なぜかモテる。
美少女が次々と仲間になって、いつの間にか主人公の周りに女の子が増えている。
そして、その手の主人公には共通点があった。
――鈍感。
「いや、普通気づくだろ」
前世では、よくそう思っていた。
明らかに顔を赤くしている。
二人きりになりたがる。
やたらと主人公を褒める。
他の女の子と話していると、あからさまに機嫌が悪くなる。
それなのに主人公は、
「え? 俺のこと好きなの?」
みたいな反応をする。
いやいや。
営業やってた俺からすると、むしろ分かりやすすぎる。
相手の表情や声のトーン、会話の間。
そういうものを見るのは仕事の一部だった。
だから俺なら、たぶん普通に気づく。
……でも。
そこで考え直した。
俺がハーレムを目指すなら、本当にそれでいいのか。
一人の女の子から好意を向けられた。
それに気づいて、
「俺も君のことが好きだ」
と答える。
すると、当然その先の話になる。
付き合うのか。
他の女の子はどうするのか。
自分は特別なのか。
そういう話を避けられなくなる。
つまり――
気づいてしまうと、選択を迫られる。
「……なるほど」
鈍感主人公が、少しだけ分かった気がした。
もしかすると、あいつらは本当に鈍感だったわけじゃない。
いや。
本当に鈍感な奴もいるだろう。
でも、もし。
もしも――
気づいているのに、気づいていないふりをしていたとしたら。
それなら、かなり合理的だ。
相手の好意に気づいても、こちらから恋愛の話に持っていかなければいい。
好意を向けられても、普通に接する。
嬉しそうにしてくれたら、
「ありがとう」
と笑う。
親切にしてくれたら、
「助かるよ」
と伝える。
少し距離が近くなっても、
「仲良くなったな」
くらいにしておく。
決して、
「俺のこと好き?」
なんて聞かない。
そんなことを聞けば、そこで話が変わってしまう。
「……これだな」
いい人でいる。
人に親切にする。
相手を大切にする。
そして、好意には気づかないふりをする。
前世から続けてきた「いい人戦略」に、これを組み込む。
俺は本当に鈍感なわけじゃない。
だからこそ、鈍感であるように振る舞う。
その方が、俺の目指すものには都合がいい。
もちろん、相手を騙したいわけじゃない。
俺が誰かを好きになったら、その気持ちはちゃんと大切にする。
ただ――
一人を選ぶことだけは、できれば避けたい。
人間の感情なんて、そう簡単に計算できるものじゃない。
だから、何もかも思い通りになるとは思っていない。
それでも。
「やってみる価値はあるだろ」
せっかく生まれ変わったんだ。
前世ではできなかったことを、今度はやってみたい。
仕事も。
人生も。
そして――恋愛も。
できるだけ欲張ってみよう。
ハーレムくらい。
目指したっていいだろう。
――その頃。
はるか天上。
下界を見下ろしていた神は、しばらく無言で蓮を眺めていた。
「…………」
やがて、小さく息を吐く。
「頭はいいんじゃがのう……」
少し間を置いて、ぼそりと呟いた。
「……アホじゃな、こいつ」




