第四十話 解決編
ギザを捕まえた俺たちは、王城へ戻った。
「これで、あとはザコーニ伯爵だね」
「ああ」
レオン殿下が頷く。
「ザコーニ伯爵には、こちらから呼び出しをかける」
「どうやって?」
「新規事業の話を持ちかける」
「なるほど」
ザコーニは、自分の商会の売り上げを増やしたがっている。
そこを利用する。
「大規模な事業をザコーニ商会に任せたい、と伝える」
「絶対来るね」
「そうだろうな」
レオン殿下が苦笑した。
*
数日後。
ザコーニ伯爵のもとへ、王城から使者が訪れた。
「王太子殿下より、召喚のお知らせです」
「私に?」
「はい」
ザコーニは手紙を開く。
そこには、新規事業について詳しい説明を聞きたいという内容が書かれていた。
「新規事業……」
ザコーニの顔が明るくなる。
「なるほど!」
すぐに意味を理解した。
「殿下は、私の商会に大きな仕事を任せたいのだな!」
「おそらくは……」
「これは大変なことだ!」
ザコーニは立ち上がった。
「すぐに準備しろ!」
「はい!」
「王太子殿下から直接お声がかかるとは!」
ザコーニは上機嫌だった。
「これでザコーニ商会は、さらに大きくなるぞ!」
*
その頃。
王城では、別の作戦が進んでいた。
「ミカ」
「はい」
「ミオーリもお願いね」
「任せて」
二人が頷く。
「ザコーニが屋敷を出たら、部屋を調べてほしい」
「分かりました」
「奴隷商との取引記録があるはずなんだよね?」
「ああ」
レオン殿下が答える。
「見つけたら持ち帰ってくれ」
「はい」
「ただし、無理はしないで」
「大丈夫です」
ミカフィーヌが静かに笑った。
「私が見つからなければ、問題ありません」
ミオーリも笑う。
「私も、捕まらないよ」
「うん」
俺も頷いた。
「じゃあ、お願い」
*
ザコーニが屋敷を出た。
馬車が王城へ向かう。
その直後。
ミカフィーヌとミオーリが動いた。
ミカフィーヌが気配を消す。
ミオーリが瞬身で一気に距離を詰める。
警備の隙を抜け、二人は屋敷の中へ入っていく。
「こっち」
ミカフィーヌが小さく指を示す。
二人はザコーニの部屋へ向かった。
部屋の中を調べる。
机。
棚。
引き出し。
「ないね」
「もう少し探そう」
ミオーリが机の裏側を見る。
そのとき。
「……あった」
ミカフィーヌが一冊の帳簿を取り出した。
その下にも、何枚もの書類が重なっている。
「これ……」
ミオーリが目を通す。
「奴隷商との取引記録」
「間違いないね」
さらに調べる。
契約書。
金銭の記録。
取引相手の名前。
日付。
数量。
「これだけあれば十分」
「持って帰ろう」
二人は書類をまとめた。
そして――。
「リッチ!」
屋敷の外で待っていたリッチが振り向く。
「帰るのー?」
「うん」
「乗ってー」
二人がリッチに乗る。
「じゃあ、行くよー」
次の瞬間。
リッチの身体が空へ舞い上がった。
凄まじい速度で、王城へ向かって飛んでいく。
*
一方、王城。
「本日は、このような機会をいただきまして!」
ザコーニは、王様とレオン殿下の前で笑顔を浮かべていた。
「我がザコーニ商会としても、これほど名誉なことはありません!」
かなり嬉しそうだ。
「まだ事業の説明もしていないぞ」
レオン殿下が言う。
「もちろん承知しております!」
ザコーニは胸を張る。
「ですが、王太子殿下から直接お声をかけていただいたのです。期待していただいていることは分かります!」
「そうか」
王様が静かに頷く。
「それでは、まず事業について説明しよう」
「はい!」
ザコーニは食い入るように話を聞いている。
そのときだった。
王様の後ろに控えていた従者が、レオン殿下へ近づいた。
「……殿下」
小さく耳打ちする。
レオン殿下が頷いた。
「分かった」
そして、ザコーニを見る。
「ザコーニ伯爵」
「はい!」
「大きな事業を任せるにあたって、一つ確認したい」
「何でしょう?」
「まさかとは思うが――法に触れるようなことはしていないな?」
「もちろんです!」
ザコーニは即答した。
「我が商会は、法を遵守しております!」
「そうか」
レオン殿下が続ける。
「例えば奴隷だ」
「……」
「この国では奴隷売買は犯罪行為だ」
ザコーニの顔が一瞬だけ強張る。
「そうしたことに関わってはいないな?」
「もちろんです!」
少し間があった。
だが、ザコーニは笑顔を作る。
「私がそのようなことに関わるはずがありません」
「そうか」
レオン殿下は頷いた。
「それならいい」
ザコーニは、ほっとしたように笑った。
そして――。
「では、これは何だ?」
レオン殿下が机の上へ書類の束を置いた。
「……?」
ザコーニが見る。
「こ、これは……」
「ザコーニ邸から押収したものだ」
「…………」
「奴隷商との契約書だ」
ザコーニの顔が青ざめる。
「そ、それは私のものではありません!」
即座に否定する。
「私の部屋にあったからといって、私が関わっているとは――」
「では、こちらを見てもらおう」
俺が前へ出た。
「レン?」
ザコーニが俺を見る。
俺は魔法を使う。
空中に映像が浮かび上がった。
ザコーニ邸。
ミカフィーヌとミオーリが侵入する。
そして、ザコーニの部屋へ入る。
書類を探し、契約書を見つける。
映像が止まる。
「この書類は、あなたの部屋から持ってきたものだよ」
「…………」
ザコーニは黙り込む。
「まだある」
レオン殿下が言った。
「ギザに、スラムの工場へ火をかけるよう指示したな?」
「そんなことは――」
「していない?」
「はい!」
「では、この映像は何だ?」
別の映像が浮かぶ。
ザコーニの部屋。
そして――。
『スラムにある工場に火をかけろ』
『必ず工場を使えなくしろ』
ザコーニ自身の声が響く。
「…………!」
ザコーニの顔が引きつった。
「これは……」
「さらに」
俺は一歩前へ出る。
変幻魔法を使った。
姿が変わる。
潜入したときの姿。
ザコーニの前で、ギザの部下に化けていた姿だ。
「この顔に見覚えは?」
「……!」
ザコーニの目が見開かれる。
「お前は……!」
「覚えてるよね」
俺は元の姿へ戻る。
「俺だよ」
ザコーニは言葉を失った。
奴隷商との取引記録。
放火の指示。
その証拠。
全部、揃っている。
俺はザコーニを見る。
「お前のやったことは――」
一歩、前へ出る。
「まるっとお見通しだ!!」
「…………!」
謁見の間が静まり返る。
(これ、言いたかったやつ〜)
俺は心の中で、ひそかにガッツポーズをした。




