第三十九話 捕物帳
「いくー」
リッチが嬉しそうに答えた。
「じゃあ、一緒に帰ろうか」
「うん!」
そのとき、背後から足音が聞こえた。
「お待たせしました」
ハボリムだった。
「お疲れさま」
「皆、片付きましたぞ」
ハボリムがこちらを見る。
そして――リッチに気づいた。
「……リッチ」
ハボリムの手が刀に伸びる。
「待って」
俺は慌てて止めた。
「今日からうちのペットだから」
「…………」
ハボリムが俺を見る。
そして、リッチを見る。
「ペット……ですか?」
「うん」
リッチが俺の後ろから顔を出す。
「ペットー」
「……そうですか」
ハボリムは刀から手を離した。
「レン殿がそう仰るのであれば」
少しだけ困った顔をして、頷いた。
*
「じゃあ、父さんを追いかけよう」
「レギオン殿ですか?」
「うん」
「どこに行ったのですかな?」
「大丈夫」
俺は目を閉じる。
「父さんの魔力を追えば、場所は分かるよ」
「……なるほど」
俺は父さんの魔力を探る。
少し離れたところに、二つの魔力を感じた。
「こっち」
俺たちは走り出した。
*
しばらく進むと、父さんの姿が見えてきた。
「父さん!」
「レン!」
父さんが振り返る。
「ギザは?」
「……逃げられた」
「え?」
「騒ぎを聞いて出てきた一般人を盾にされた」
「……なるほど」
父さんが悔しそうに拳を握る。
「追いかけたかったが、あれでは無理だ」
「そっか」
俺は少し考える。
「でも、大丈夫だよ」
「何がだ?」
「ギザの魔力を追えば、場所は分かるから」
「……そうだったな」
俺はギザの魔力を探る。
「こっち」
俺たちは、ギザの進路へ先回りした。
*
「なっ……!」
ギザが足を止める。
前には俺たち。
後ろにも道はない。
「くそっ!」
ギザが腰の刀を抜く。
「こうなったら……!」
父さんが一歩前に出た。
「ここは俺がやろう」
「父さん?」
「レンは下がっていろ」
父さんが剣を抜く。
ギザが構える。
「俺を舐めるなよ!」
父さんは静かに剣を構えた。
「……来い」
「ハボリム」
「はい」
「お父さん、大丈夫かな?」
俺が聞くと、ハボリムは父さんを見る。
「ご心配には及びません」
「そう?」
「ここ数年、拙者との模擬戦で、とても腕を上げております」
ハボリムが小さく笑う。
「恐るるに足りませんな」
「そっか」
俺も父さんを見る。
「じゃあ、大丈夫だね」
*
勝負は、一瞬だった。
「はあっ!」
ギザが踏み込む。
父さんも同時に動いた。
二人がすれ違う。
――キンッ!
剣と刀がぶつかる音が響いた。
ギザが足を止める。
「……え?」
そのまま、膝から崩れ落ちた。
「すごい……」
俺が呟く。
ハボリムも父さんを見る。
「……父上、かっこいいですな」
「だろ?」
俺が振り返る。
ハボリムは少しだけ考えてから、解説を始めた。
「最初の一撃で相手の剣を弾き、その後は剣速が落ちる峰打ちに切り替えています」
「うん」
「そして、すれ違いざまに三連打」
「三連打……」
「全て急所を的確に打ち抜いておりますな」
ハボリムが、にやりと笑った。
「……」
俺は父さんを見る。
父さんも少し気まずそうにしている。
(ハボリム……)
(空気読んでよー)
父さんは咳払いを一つした。
「まあ……これも日頃の鍛錬の成果だな」
そして、俺の頭に手を置く。
「息子に、カッコ悪いところは見せられないからな」
「……うん」
俺は笑った。
父さんは、やっぱりカッコいい。




