第三十八話 ペット?
「まず、確認しておこう」
父さんが足を止めた。
「今回の目的は、ギザの捕縛だ」
「うん」
「ザコーニ伯爵の件もある。証拠を確保する必要があるからな」
父さんが俺とハボリムを見る。
「だから、誰も殺すな」
「分かってる」
俺は頷いた。
「拙者も承知しております」
「気絶させるだけだ」
「はい」
三人で確認する。
今回の目的は、あくまで捕縛。
殺しはなしだ。
*
しばらく進むと、古びた建物が見えてきた。
「この辺りだな」
父さんが周囲を見渡す。
入り口の周辺には、十数人の男たちがいる。
「見張りかな」
「ああ」
父さんが剣に手をかける。
その横から、ハボリムが一歩前へ出た。
「ここは拙者が」
「任せていいか?」
「もちろんです」
ハボリムが剣を抜く。
「レン、行くぞ」
「うん」
俺と父さんが建物へ向かう。
「待て!」
男たちがこちらに気づいた。
「侵入者だ!」
何人かが俺たちを追おうとする。
だが、その前にハボリムが立ちはだかった。
「お二人は先へ」
「分かった」
父さんと俺は、そのまま走る。
背後から剣がぶつかる音が聞こえてきた。
「父さん」
「なんだ?」
「ハボリム、大丈夫かな?」
「殺される心配はないだろう」
父さんが笑う。
「殺す心配はあってもな」
「……たしかに」
俺も笑った。
*
建物の中にも男たちがいた。
俺と父さんは、向かってくる連中を倒しながら奥へ進む。
父さんは剣で。
俺は魔法で。
できるだけ怪我をさせないように、動きを止めていく。
「この先だ」
父さんが一つの扉を指差した。
扉を開ける。
「ギザ!」
部屋の中に、一人の男がいた。
「なっ……!」
ギザが立ち上がる。
「お前ら、どうやってここまで……」
「大人しく捕まれ」
父さんが剣を構える。
「くそっ!」
ギザが後ろへ下がる。
すると――。
壁の一部が動いた。
「隠し通路?」
俺が呟く。
ギザが、その中へ飛び込んだ。
「待て!」
父さんが追う。
俺も続いた。
狭い通路を抜ける。
その先は、建物の裏庭だった。
「逃げる気か!」
父さんが叫ぶ。
「へへ……!」
ギザが振り返る。
そして、懐から黒い玉を取り出した。
「これでも食らえ!」
黒い玉を地面へ叩きつける。
――ドンッ!
地面から黒い魔力が噴き出した。
「グオオオオオッ!」
巨大な魔物が姿を現す。
「リッチ……!」
父さんが驚く。
白骨化した身体。
黒いローブ。
手には古びた杖。
強力なアンデッドだ。
ギザが、その隙に走り出す。
「父さん!」
「ああ!」
父さんがギザを追う。
「レン、こいつを頼めるか!?」
俺はリッチを見る。
「ここは僕が」
……これ、言ってみたかったんだよね。
「頼む!」
父さんはそのままギザを追って、外へ走っていった。
俺は一人、リッチと向き合う。
「さて」
俺は魔法の撮影道具を取り出した。
「はーい」
配信を開始する。
「今回はリッチをわからせる、ということで」
俺はリッチを指差す。
「こちらのリッチさんにお越しいただきましたー」
「…………」
リッチは何も答えない。
当然だ。
アンデッドだから。
リッチが杖を掲げる。
周囲の魔力が一気に膨れ上がった。
そして、巨大な黒い魔法が放たれる。
「その魔力――」
俺は手を前に出す。
「消えるよ」
魔法に触れた瞬間。
黒い魔力が、跡形もなく消えた。
「…………」
リッチが動きを止める。
俺はカメラを見る。
「ということで、まず一個わからせましたー」
すると。
リッチが再び杖を掲げた。
さっきとは比べものにならない。
膨大な魔力が集まっていく。
「おおー」
俺はカメラを見る。
「これは、かなり大きいですねー」
リッチの周囲を、魔力の奔流が渦巻く。
「消してばっかりだと、視聴者さんも飽きるからねー」
俺は少し考える。
「今回は、ちゃんと受けてみよう」
リッチが杖を振る。
炎が生まれた。
それは巨大な竜の姿へ変わっていく。
「え?」
俺は思わず声を漏らした。
「何この魔法?!」
炎の竜が迫ってくる。
俺は手を前に出した。
同じように魔力を集める。
同じ属性。
同じ形。
同じ大きさ。
俺の前にも、炎の竜が現れた。
二匹の炎竜が正面からぶつかる。
轟音。
炎が弾ける。
巨大な魔力同士がぶつかり合い――。
そして。
完全に相殺された。
「…………」
リッチが固まる。
俺はカメラを見る。
「完全に同じ魔法で相殺しましたー」
リッチが動かない。
俺は少し考えた。
「リッチには、多分聖魔法だよねー」
俺は両手を前に出す。
魔力を集める。
集める。
さらに集める。
空気が震える。
地面まで小さく揺れている。
「おお……」
俺はカメラを見る。
「これは、かなり大きい魔法になりそうですねー」
さらに魔力を込める。
巨大な光が、俺の前に集まっていく。
「これで跡形もなくなったら――」
俺は笑顔でカメラを見る。
「拍手をお願いしますー」
その瞬間。
リッチが動いた。
そして――。
地面に手をついた。
深々と頭を下げる。
「…………」
「…………」
「…………」
リッチが土下座している。
「ごめんなさいー!」
「調子に乗りましたー!」
俺は目を丸くした。
しばらくリッチを見る。
そして、カメラに向き直った。
「殺さない約束も守れましたー」
俺は少しだけリッチを見る。
「リッチなら殺してもいいかと思いましたが、殺さないほうがいいよねー」
集めていた魔力を消す。
「では、また見てねー」
俺はカメラに手を振った。
配信終了。
俺は土下座したままのリッチに近づいた。
一歩。
また一歩。
すると――。
「ひっ!」
リッチが後ずさる。
「え?」
さらに近づく。
「こ、来ないで!」
リッチは両手を前に出して、必死に俺から離れようとする。
「そんなに怖がらなくても……」
「だって怖いんだもん!」
リッチが震えながら叫ぶ。
「あなた、なんなのー!」
「え?」
俺は首を傾げた。
「普通の五歳児だけど」
「どこが普通なのよー!」
リッチの声が裏返った。
「まあまあ」
俺はリッチを落ち着かせるように言った。
「それで、帰るところはあるの?」
「……え?」
リッチが顔を上げる。
「帰るところ?」
「うん。住んでるところとか」
「…………」
リッチは少し黙った。
「ないわ」
「ないの?」
「ええ……」
リッチが俯く。
「ずっと、この人たちに呼び出されていただけだから」
「そっか」
俺は頷いた。
「じゃあ、一緒に来る?」
「…………え?」
「帰るところがないなら、うちに来ればいいよ」
リッチが俺を見る。
しばらく黙っていた。
そして――。
「いくー」
嬉しそうに答えた。
こうして、リッチがペットになりました。




