第三十六話 潜入生配信
「はーい」
俺は魔法で作った映像装置に向かって手を振った。
「今回は、ザコーニ伯爵家に潜入してみたいと思いまーす」
「……レン」
父さんが呆れた顔をしている。
「なに?」
「何をしているんだ?」
「配信」
「……」
父さんが頭を抱えた。
隣では、ハボリムも困った顔をしている。
「その口調は必要なのですかな?」
「配信だから!!」
「……そうですか」
ハボリムも諦めた。
俺は改めて周囲を見回す。
今日は、いきなり屋敷へ向かったわけじゃない。
ミカフィーヌが事前に調べてくれた情報をもとに、ギザの手下たちが屋敷へ出入りする時間を狙っている。
そして――。
「おや?」
「おやおや?」
少し先に、数人の男たちが歩いてきた。
俺は顔を確認する。
「あそこにいるのは……」
以前、ミカフィーヌが調べてくれた連中。
間違いない。
「ギザの手下ではないですか?!」
「……本当に来たな」
父さんが呟く。
「ミカの調査通りですな」
ハボリムも頷いた。
男たちが近づいてくる。
「おい!」
一人が俺たちに気づいた。
「来たのか!」
「はい。ギザさんから聞いてます」
どうやら疑われていない。
「ああ。こっちだ」
男が手招きする。
「案内する」
男が背を向けた。
その瞬間。
「スリープ」
俺が小さく呟く。
男たちの身体から力が抜けた。
そのまま、全員が地面に倒れる。
「……」
「……」
父さんとハボリムが俺を見る。
「すごいね」
「何がだ?」
「予定通りすぎる」
「……」
父さんが、また頭を抱えた。
「確かに、都合がよすぎますな」
ハボリムも苦笑する。
「まあ、ミカの調査が優秀だったってことで」
俺は倒れた男たちを見る。
「服、借りよう」
*
俺たちは男たちの服に着替えた。
そして――。
「変幻」
魔法を使う。
俺の身体が変わっていく。
顔。
髪。
身体つき。
服装。
目の前にいた男と、ほとんど同じ姿になる。
「……」
父さんが固まった。
ハボリムも無言になっている。
「どう?」
俺が聞く。
「……もう驚かんぞ」
父さんが呟いた。
「拙者もです」
ハボリムが頷く。
「そう?」
まあ、慣れてきたのかな。
俺は魔法の映像装置に向かって笑った。
「それでは、改めて潜入してみたいと思いまーす」
「……レン」
「なに?」
「本当にそれ、必要なのか?」
「配信だから!!」
*
俺たちは、そのままザコーニ伯爵家へ向かった。
門番は俺たちの姿を見ると、特に怪しむ様子もない。
そのまま屋敷の中へ入る。
そして――。
「ここだ」
男が案内したのは、伯爵の部屋だった。
「……」
俺は少しだけ驚いた。
まさか、いきなり伯爵本人のところへ連れていかれるとは。
でも、好都合だ。
「入れ」
部屋の奥から声がする。
「失礼します」
俺たちは中へ入った。
そこにいたのは、一人の男。
ザコ・ザコーニ。
ザコーニ伯爵家の当主だった。
「お前たち!」
俺たちを見るなり、ザコーニが怒鳴った。
「嫌がらせを続けているのに、なぜ売り上げが落ちない!」
「……」
俺は黙って話を聞く。
「商品を捨てさせただろう!」
「店にも圧力をかけた!」
「従業員も脅した!」
ザコーニは机を叩いた。
「それなのに、なぜだ!」
そして。
「このままでは、スラムの連中が裕福になってしまうではないか!」
俺は黙っている。
「そうなれば、奴隷に売る子供がいなくなる!」
「奴隷商人との取引もできなくなる!」
「ザコーニ商会の売り上げも戻らん!!」
なるほど。
自分の商会の売り上げ。
スラムの連中が豊かになることへの不満。
そして、奴隷売買。
全部つながっている。
これは――。
(テンプレ悪人だなぁ)
俺は表情を変えなかった。
そして、もう一歩踏み込む。
「では、来週の作戦はどのようにしましょう?」
「決まっている」
ザコーニが即答した。
「スラムにある工場に火をかけろ」
「……工場に?」
「ああ」
ザコーニは吐き捨てるように言った。
「やり方はお前たちに任せる」
「分かりました」
「必ず工場を使えなくしろ」
「はい」
「これ以上、あの連中に儲けさせるわけにはいかん」
ザコーニはさらに続けた。
「スラムの連中が裕福になれば、奴隷として売れる人間が減る」
「そうなれば、こちらの利益も減るんだ」
「ザコーニ商会の売り上げも戻らん!!」
「はい」
俺は頷いた。
「必ず成功させます」
「ふん。最初からそうしろ」
(証拠ゲット)




