第三十四話 ポテトチップスといやがらせ
ポテトチップスの販売を始めてから、しばらく経った。
会社は順調だった。
最初は二十人ほどだった従業員も、今では三十人になっている。
ポテトチップスの評判が広がるにつれて、特許料を払って製造する商人も増えてきた。
それでも、本家の売り上げが落ちることはなかった。
むしろ、元祖としての知名度が上がり、さらに売り上げを伸ばしていった。
この世界の料理は、前世の日本ほど美味しくない。
そんな中で生まれた、薄くてパリパリしたジャガイモ。
油と塩だけというシンプルな味付けも、この世界では十分に新鮮だった。
ポテトチップスは、あっという間に人気商品になった。
会社も少しずつ大きくなっていった。
そんな順調な日々が、しばらく続いていた。
*
「――いやがらせ?」
「はい」
ユナから話を聞いた俺は、聞き返した。
俺の向かいには、ユナとミオーリが座っている。
「店に納品した商品を、勝手に捨てられたり……」
「うちの商品を扱わないように、店に圧力をかけている人もいるみたいです」
「従業員に、仕事を辞めるよう脅した人もいます」
「なるほど」
俺は少し考えた。
「誰がやってるかは、分かってる?」
「まだ、はっきりとは……」
「そっか」
俺は隣にいるミカを見る。
「ミカ」
「はい」
「ちょっと調べてもらえる?」
「分かりました」
*
それから数日後。
ミカが戻ってきた。
「分かりました」
「早いな」
「はい」
ミカは淡々と報告を始めた。
「いやがらせをしている人は、少なくとも十八人います」
「十八人……」
「その人たちをまとめているのは、ギザという男性です」
「ギザ」
「はい」
ミカは続ける。
「ギザは、ザコーニ家という貴族の家に出入りしています」
「……ザコーニ?」
その瞬間。
ユナの顔から血の気が引いた。
「……ザコーニ家……」
「ユナさん?」
ユナは震える声で呟いた。
「その名前……間違いないんですか?」
「はい」
ミカが答える。
「ザコーニ家です」
ユナが俯いた。
「……あの馬車」
「馬車?」
「あのときの馬車が……ザコーニ家のものだったんです」
俺は黙った。
あの日。
暴走した馬車が、ミオーリのいる場所へ向かってきた。
ユナは娘を庇い、その身を盾にした。
そして馬車が通り過ぎたあと。
ミオーリは、邪魔だと言われて殴られた。
ユナは大怪我を負った。
治療費を払うどころか、そのまま立ち去った貴族。
その馬車が、ザコーニ家のものだった。
ミオーリは、母親の隣で黙って話を聞いている。
「それと……」
ミカが続ける。
「向こうは、ポテトチップスの売り上げがなかなか落ちないことを気にしています」
「なるほど」
「来週、何か大きなことをする、と話していました」
「詳しい内容は?」
「分かりませんでした」
「そっか」
少なくとも十八人。
まとめているのはギザ。
その背後には、ザコーニ家。
そして来週、何かを仕掛けてくる。
後ろからハボリムの声がした。
「これは……上級隠密並みの調査ですな」
ハボリムがミカを見る。
「人数だけでなく、指揮する者、その背後にいる貴族、さらに今後の動きまで探ってきたのでしょう?」
「はい」
「見事です」
「ありがとうございます」
ミカが少し嬉しそうに答える。
俺はミカを見る。
七歳の少女。
それでも、その隠密の腕は本物らしい。
「じゃあ、早速やりましょうか」
俺は立ち上がった。




