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異世界で使える、35歳営業マンのいい人戦略 ~せっかく生まれ変わったから、ハーレムくらい目指します~  作者: kammy


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第三十話 お忍びデート

王都の街。


 今日はユカと二人で出かけている。


 正確には、少し離れたところにハボリムとユカの従者がいる。


 気配を消しているので、街の人たちにはほとんど気づかれていない。


 ミカは王宮で待っている。


 つまり。


 俺とユカだけのお忍びデートだ。


「レン、どこへ行きますか?」


「まずは、あっちを見てみようか」


「はい!」


 ユカは楽しそうに俺の隣を歩いている。


 王女として王宮の中で暮らしているユカにとって、こうして普通の街を歩くのは珍しいらしい。


「これ、可愛いですね」


 最初に入ったのは洋服屋だった。


 ユカが店内を見て回る。


 しばらくして。


「レン」


「ん?」


「これ、似合いますか?」


 ユカが一着の服を身体に当てる。


「うん。似合うと思うよ」


「本当ですか?」


「うん」


 ユカが嬉しそうに笑う。


 そして、別の服を手に取った。


「では、これは?」


「それも似合うよ」


「……」


 ユカが二着の服を並べて見る。


「では、これとこれなら、どちらが似合いますか?」


「……」


 来た。


 俺は二着を見比べる。


 どちらも似合っている。


「どっちも似合うと思うよ」


「どちらか一つなら?」


「うーん……」


 俺は少し考えた。


「俺はこっちが好きかな」


 片方を指差す。


「こっちですか?」


「うん。ユカちゃんらしい感じがする」


「……そうですか」


 ユカが少し嬉しそうに笑った。


(危なかった)


(どっちが似合うトラップ……)


(こえー)


 どちらかを選べば、もう一方を否定することになる。


 でも、「俺はこっちが好き」なら問題ない。


(営業マンを舐めるなよ)


(こういう質問への対応は慣れてるんだ)


 俺は心の中で小さく頷いた。


「では、こちらにします」


「うん。似合うと思うよ」


「ありがとうございます」


 ユカは嬉しそうに服を抱えた。


 買い物を終えて店を出る。


「次はどこへ行きますか?」


「そうだな……」


 街を歩いていると、香ばしい匂いが漂ってきた。


「……あ」


「どうしました?」


「あそこ」


 屋台を指差す。


 串に刺された肉が並んでいる。


「串肉だ」


「串肉?」


「市場の食べ歩きといえば、これだよ」


「食べ歩き……」


 俺は屋台で二本買った。


 一つをユカに渡す。


 ユカは串肉をじっと見つめている。


「……どうやって食べるのですか?」


「え?」


「この串は……?」


「普通にこうだよ」


 俺は串を持ち、肉にかぶりついた。


「こうやって」


「そのまま食べるのですね」


「うん」


 ユカも恐る恐る串を口元へ持っていく。


 そして。


「……!」


「おいしい?」


「はい!」


 ユカの顔が明るくなる。


「よかった」


「こんな食べ方があるんですね」


「こういうのは、歩きながら食べるのがいいんだよ」


「歩きながら……」


 ユカは少し楽しそうに串肉を食べる。


 王宮では見たことのない顔だった。


 俺ももう一口食べる。


(……なんか、ちゃんとデートしてるな)


 その後も、いくつかの店を見て回った。


 小物を見たり。


 果物を買ったり。


 ユカは何を見ても楽しそうだった。


 しばらくして。


「レン、あちらにも行ってみませんか?」


「うん」


 俺たちは食材を扱う市場へ向かった。


     *


 市場は人で賑わっていた。


 野菜、果物、肉、魚。


 いろんな店が並んでいる。


「すごいですね」


「こういうところ、面白いよね」


 俺は店先の商品を眺めながら歩く。


 そのときだった。


「……ん?」


 少し前を、一人の女の子が歩いている。


 年齢は俺より少し上くらいだろうか。


 特に変わったところはない。


 でも。


(……なんだ?)


 歩き方が少しぎこちない。


 店の商品を見ているようで、見ていない。


 周囲を気にしている。


(何か狙ってるな)


 俺は何気なく少女を目で追った。


 少し離れたところにいるハボリムも、少女を見ていた。


(やっぱり、気づいたか)


 ハボリムは動かない。


 俺も動かない。


 少女がこちらへ近づいてくる。


 ゆっくり。


 でも、その歩き方はやっぱり不自然だった。


(俺たちを狙ってる?)


 ユカはまだ気づいていない。


 少女との距離が縮まる。


 そして――。


 少女が俺の横を通り過ぎた。


「……」


 何も起こらない。


 俺はそのまま歩く。


(……まあ、俺なら止められるだろ)


 身体強化もある。


 魔法もある。


 何かあればすぐに対応できる。


 だから、あえて何もしなかった。


 少女はそのまま人混みの中へ消えていく。


 俺は何気なくポケットに手を入れた。


「……ない」


 財布がない。


「…………」


 俺は少女が消えていった方向を見る。


(今のか?)


 間違いない。


(……待て)


(俺、気づいてたよな?)


(狙ってるって、わかってたよな?)


(なのに――)


 盗られた。


(わかってたのに?!)


 そのとき。


 少し離れたところから、ハボリムが近づいてきた。


 その後ろから、ユカと従者もついてくる。


「ハボリム」


「はい」


「見えてた?」


「はい」


「……」


「動けませんでしたが」


「……フッ」


 思わず笑ってしまった。


 ハボリムでも動けないのか。


「どうしたのですか?」


 ユカが不思議そうに尋ねる。


「財布、取られた」


「えっ?」


 ユカが目を丸くする。


「大変です! 追いかけないと!」


「大丈夫だよ」


「え?」


「持ち物には魔法をかけてあるから」


 俺は少女が消えていった方向を見る。


「場所は分かるよ」


「なっ!!」


「なっ!!」


 ユカとハボリムの声が重なった。


「……?」


 俺は二人を見る。


 どうしたんだろう。


 俺としては、盗られることもあるかもしれないから、念のためにやっておいただけなんだけど。


「こっち」


 俺は歩き出す。


 ユカとハボリムも、慌てて後をついてくる。


 そして俺たちは、少女の後を追った。

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