第二十八話 王宮談義
王宮の一室。
俺たちは、ユカちゃんを囲んで話をしていた。
「レンとは、昔から仲がいいんですよね?」
ユカちゃんがリカを見る。
「ええ」
リカが頷いた。
「私がレンに魔力操作を教えたの」
「え?」
ユカちゃんが驚く。
「レンに?」
「そうよ」
リカは少し得意そうに胸を張った。
「魔力を指先まで巡らせる方法とか、細かく操作する方法とか。私が教えたの」
「そうなんですか?」
「ええ。レンは魔力が多すぎるから、最初は細かい操作が大変だったのよ」
「へえ……」
ユカちゃんが俺を見る。
「レンは、そんなに魔力が多いんですか?」
「まあ……普通よりは」
「普通より、ねぇ」
リカが意味ありげに俺を見る。
……まあ、そこは今さらだ。
「でも、レン様は朝が早いですよ」
ミカが口を挟んだ。
「朝?」
「はい」
ミカが頷く。
「私が起きる頃には、もう起きていることが多いです」
「そうなの?」
ユカちゃんが俺を見る。
「まあ、早く起きることはあるな」
「私が起きる前に、もう魔法の練習をしていることもあります」
「へえ……」
リカがミカを見る。
「それは知らなかったわ」
「でしょう?」
ミカが少し嬉しそうに笑う。
すると、今度はユカちゃんが口を開いた。
「私は、レンに助けてもらいました」
「……!」
ミカとリカがユカを見る。
「この前、襲われたときに」
「ああ……」
リカが頷く。
「レンが来てくれたんです」
ユカちゃんが笑う。
「私を助けてくれました」
俺は三人を見る。
(……あれ?)
(張り合ってる?!)
なんだ、この流れ。
俺の知らないところで、何が始まってるんだ?
*
「そういえば」
ミカが、ふと思い出したように言った。
「レン様の寝顔、とても可愛いんですよ」
「寝顔?」
ユカちゃんが聞き返す。
「はい」
ミカがうっとりとした表情になる。
「私が起きる前にレン様のお部屋を通ることがあるんですけど……」
「…………」
「眠っているレン様は、それはもう天使のようで」
「…………」
リカとユカちゃんが黙っている。
「本当に可愛いんですよ」
ミカは嬉しそうに話す。
……やめてくれ。
俺は何とも言えない気持ちになった。
「私とレンは、魔法の練習をしている時間が長いわ」
リカが言った。
「そうね」
ユカちゃんが頷く。
「でも」
ユカちゃんが、少しだけ笑った。
「私とレンには、秘密があるのですよ」
「秘密?」
リカが反応する。
「はい」
「……そう」
リカが少し考える。
「それなら私も」
リカが言った。
「フェニックスから助けてもらったことがあるわ」
「フェニックス?」
ユカちゃんが目を見開く。
「災害級魔獣の?」
「ええ」
リカが頷く。
「私が襲われたとき、レンが身を挺して助けてくれたの」
「…………」
「私を守るために、レンが――」
(地蔵になる)
(地蔵になる)
俺は心の中で唱えた。
(ここは地蔵だ)
(俺は何も聞いていない)
(何も見ていない)
三人が俺の話で張り合っている。
でも。
ここで俺が口を挟んだら、絶対にややこしくなる。
俺は黙って座っていた。
ただの地蔵として。
*
「それでは、魔法を見せてもらえますか?」
しばらくして、ユカちゃんが言った。
「もちろん」
俺が立ち上がる。
「リカも一緒にやろう」
「ええ」
リカも立ち上がった。
「まずは水にしましょう」
「うん」
俺は手を前に出した。
魔力を集める。
空気中の水分を集め、ひとつにまとめていく。
すると。
手のひらの上に、水の塊が浮かんだ。
「わあ……」
ユカちゃんが目を輝かせる。
「こんなことができるんですね」
「これくらいなら簡単だよ」
俺が言う。
「じゃあ、私も」
リカが手を前に出す。
リカの手の上にも水が集まる。
それが細く伸びていき、空中で一本の線のようになった。
「こうやって、形を変えることもできるわ」
「すごい……」
ユカちゃんが感心する。
「じゃあ、俺はこう」
俺が魔力を操作すると、水がいくつもの小さな球に分かれた。
空中をくるくると回る。
「すごいです!」
「私なら、こうね」
リカが魔力を伸ばす。
水の球が薄く広がり、膜のような形になった。
「こんなこともできるわ」
「おお」
俺も少し調子に乗った。
空中の水が一つに集まり、大きな球になる。
「これは?」
「なら、私は――」
リカが手を伸ばす。
魔力が水の球に触れた。
次の瞬間。
水の球が消えた。
「…………」
「…………」
「…………」
ユカちゃんが目を見開く。
「……リカ」
「なに?」
「あなた……」
ユカちゃんが、ゆっくりと聞いた。
「魔法を消せるの?」
「ええ」
リカは、あっさり頷いた。
「出せるので、消せますわよ」
「…………」
俺は頭を抱えた。




