第二十五話 魔法の秘密
王宮。
謁見の間。
俺は父さんの隣で、緊張しながら立っていた。
正面には、アルヴェリア王国の国王陛下。
その隣には、何人もの王族や重臣たちが並んでいる。
(……王様だ)
前世では、もちろん会ったことなんてない。
そんな俺に、国王陛下が声をかけた。
「レギオン・クロイツ」
「はっ」
「先日の件、王女を救ってくれたこと、心より礼を言う」
「もったいなきお言葉です」
父さんが頭を下げる。
俺も慌てて頭を下げた。
「そして、レン」
「はい」
「お前にも礼を言おう」
「……はい」
やっぱり。
俺も呼ばれたのは、このためだったのか。
「王女が無事だったのは、お前たちのおかげだ」
「ありがとうございます」
俺はもう一度頭を下げる。
よかった。
魔法を消したことについて、詳しく聞かれるわけじゃないらしい。
(……助かった)
そう思った、そのとき。
「レン様」
横から声がした。
振り向く。
そこにいたのは、ユーカリティー王女殿下だった。
「先日は、ありがとうございました」
ユカも小さく頭を下げる。
「いえ。無事でよかったです」
俺も頭を下げる。
するとユカが、少しだけ顔を上げた。
「……私も、お礼を言いたかったのです」
「ありがとうございます」
「それと……」
ユカが少しだけ迷う。
「レン様」
「はい」
「私と――」
来る。
何か来る。
(魔法か?)
(やっぱり、魔法を消したことか?)
俺は内心で身構えた。
しかし。
「私と友達になってください」
「…………」
(なにー!!?)
予想していたのと全然違った。
俺は一瞬固まった。
でも。
こういうときこそ平静に。
営業マンとして培った対応力を発揮する。
「……喜んで」
笑顔で答えた。
ユカの表情が少し明るくなる。
「本当ですか?」
「はい」
「ありがとうございます」
ユカが嬉しそうに笑った。
……王女様と友達になった。
俺はなんとも言えない気持ちになった。
*
その後。
王宮の庭。
俺とユカは少し離れた場所で話をしていた。
「レンさん」
「はい」
ユカが周囲を確認する。
そして、小さな声で。
「……あなた、魔法を消せるの?」
「……」
やっぱり、それか。
「はい。消せますが……」
俺も声を落とす。
「あまり公にはしないでもらえると……」
「どうして?」
「その……」
俺は言葉を濁す。
「ちょっと、普通じゃないみたいなので……」
「……そうなの?」
「母さんが言うには」
俺は小声で続ける。
「宮廷魔術師の人たちからすると、そういうことができる人は……その……」
「その?」
「……変態、と呼ぶらしいです」
「…………」
ユカが固まった。
「……変態?」
「はい」
「魔法を消せる人が?」
「らしいです」
「…………」
ユカはしばらく黙っていた。
そして。
「分かった」
「ありがとうございます」
「誰にも言わない」
「助かります」
俺はほっとした。
これで何とか――。
「でも」
「はい?」
「私たち、友達じゃない」
「…………」
「友達なら、秘密は守るでしょう?」
「……そうですね」
「だから、誰にも言わない」
「ありがとうございます」
俺は笑った。
……ギリギリセーフ。
どうやら俺は。
王女様という、とんでもない秘密の共有相手を手に入れてしまったらしい。




