第十八話 今度は鑑定、、、のやつ
――パキンッ。
首元で、小さな音がした。
「……え?」
ミカフィーヌは、自分の首に手を触れた。
そこにあったはずの感触がない。
重く、冷たい。
ずっと自分を縛りつけていたものが。
外れていた。
「……外れた?」
そんなはずはない。
奴隷の首輪は、簡単に外れるものではない。
逃げられないように。
逆らえないように。
魔法によって固定されている。
鍵がなければ外せない。
自分たちでは、どうすることもできない。
だから。
ずっと。
これをつけたまま、生きていくのだと思っていた。
「……本当に?」
もう一度、首元に触れる。
何もない。
目の前にいる小さな男の子を見る。
「これで大丈夫かな」
男の子は、何でもないことのように言った。
そして。
「次は、あっち」
そう言って、他の人たちのところへ向かっていった。
「…………」
ミカフィーヌは、その背中を見つめた。
首輪が。
一つ。
また一つ。
次々と外れていく。
――外れないはずなのに。
誰も外せなかった。
誰も助けてくれなかった。
それなのに。
あの人は。
当たり前のように。
全部、外していった。
*
その後。
助け出された人たちは、全員が辺境伯家の別邸へ移された。
ミカフィーヌも、その一人だった。
食事が出された。
清潔な服も渡された。
久しぶりに、暖かい場所で眠った。
そして。
あの人は。
笑って帰っていった。
ミカフィーヌのことを特別扱いすることもなく。
何かを求めることもなく。
ただ。
助けて。
首輪を外して。
それだけで。
笑って帰っていった。
首輪は、外れないはずだった。
あの人は。
何者だったのだろう。
*
数日後。
俺は、父さんと一緒に辺境伯家の別邸へ来ていた。
助け出された人たちの身元確認に、俺も同行している。
「レン。ここでは余計なことをするなよ」
「しないよ」
父さんは俺を疑いすぎだと思う。
俺だって、いつも何かしているわけじゃない。
「そうか」
「……その顔、信じてないでしょ」
「まあな」
ひどい。
俺たちは、順番に助け出された人たちの話を聞いていった。
名前。
出身地。
家族。
帰る場所。
そうしたことを確認していく。
「父と母が、隣の村に……」
「妻がいます。たぶん、まだ待っているはずです」
「兄が……いると思います」
ほとんどの人には、帰る場所があった。
家族がいた。
奴隷として売られる前の生活があった。
もちろん、すぐに帰れるわけではない。
辺境伯家が確認し、安全を確保する必要がある。
それでも。
帰る場所があるというだけで、表情を明るくする人もいた。
そして。
最後になった。
「……以上です」
確認を担当していた男が言う。
部屋に残っているのは、二人だけだった。
一人は。
片腕のない男。
そして、片方の目も失っている。
もう一人は。
あの猫耳の少女。
「……」
俺は二人を見る。
猫耳の少女には、帰る場所がない。
家族もいない。
もともと住んでいた国は、すでに襲撃されている。
生き残った者たちがどこにいるのかも分からないらしい。
そして。
片腕の男も。
「帰る場所は?」
「ない」
「家族は?」
「……いない」
それだけだった。
短い。
聞かれたことにしか答えない。
俺は改めて男を見る。
片腕がない。
片方の目も失っている。
そして、何かを隠しているような雰囲気。
……いや。
(どう見ても怪しいだろ)
というか。
(片腕の隻眼)
俺は前世で読んだ物語を思い出す。
こういう人。
大体。
(成り上がる?)
いや、何が。
でも。
失った腕。
失った目。
それでも、ただならない雰囲気。
これは。
(鑑定)
念のため。
俺は男に鑑定を使った。
視界に文字が浮かぶ。
名前。
年齢。
種族。
そして。
称号。
「…………」
俺は止まった。
もう一度見る。
そこに書かれていたのは。
――剣聖。
(……で?!!)
いや。
何が「で?」なのか。
自分でも分からない。
でも。
剣聖。
やばい。
絶対にやばい。
(……やばす)
俺は男を見た。
やっぱり。
ただ者じゃなかった。
なら。
治せるなら、治しておいた方がいい。
「おじさん」
「……何だ」
「ちょっと、いい?」
男が警戒したように俺を見る。
俺は、その目の前まで歩いた。
そして。
残っている片腕に触れる。
「おい」
「大丈夫」
俺は魔力を流した。
失われた部分を確認する。
身体の構造を辿る。
治癒魔法。
以前から何度も使っている。
傷を治す。
骨を繋ぐ。
でも。
今回は違う。
失われた部分そのものを。
もう一度。
作る。
魔力が集まっていく。
「……なっ」
男が声を漏らした。
肩から。
何もなかった場所から。
肉が生まれる。
骨が。
筋肉が。
そして。
指が一本ずつ、形を作っていく。
「…………」
男が動かない。
いや。
動けないのだろう。
目の前で。
失ったはずの腕が。
生えてきているのだから。
俺はそのまま、男の顔に手を伸ばした。
「待て」
「こっちも」
男が言葉を失う。
俺は失われた目にも魔力を流した。
そして。
再び。
何もなかった場所に。
新しい目が生まれていく。
「……」
男が、ゆっくりと瞬きをした。
片方しかなかった視界。
そこに。
もう一つの光が戻る。
「……見える」
小さな声だった。
俺は頷いた。
「よかった」
男は、自分の腕を見る。
ゆっくりと指を動かす。
握る。
開く。
「…………」
何も言わない。
隣を見る。
猫耳の少女も。
同じように。
口を開けたまま、俺を見ていた。
剣聖と。
ケモミミ。
二人揃って。
唖然としていた。
……あれ?
俺、なんかやった?




