↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で使える、35歳営業マンのいい人戦略 ~せっかく生まれ変わったから、ハーレムくらい目指します~  作者: kammy


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/41

第十一話 魔法談義

「無詠唱なんて、嘘つかないで!!」


 庭へ出て、父親たちの姿が見えなくなったところで。


 リカが、いきなりそう言った。


「嘘じゃないよ」


「嘘よ!」


「だから、嘘じゃないって」


「だって魔法を使うときは、詠唱するものでしょ!?」


 レンは困った。


 どうやら、昨日からずっとこのことを考えていたらしい。


 五歳の女の子にしては、なかなか執念深い。


「でも、昨日見たでしょ?」


「見たわよ!」


「じゃあ、信じてよ」


「見たから困ってるの!」


 なるほど。


 そういうことか。


 レンは少し考えた。


 自分にとっては、魔法を使うときに詠唱をするという発想そのものがあまりなかった。


 火を出したい。


 水を出したい。


 風を起こしたい。


 そのために必要なものを想像して、魔力を使う。


 それだけだ。


 だが、リカにとっては違うらしい。


「じゃあさ」


「なによ」


「リカは、魔法って何だと思う?」


「……何よ、急に」


 リカが怪訝そうな顔をする。


「いいから」


「魔法は……魔力を使って、火や水や風を出すものよ」


「うん」


 レンは頷いた。


「俺は、魔力を使って自然現象を再現することだと思ってる」


「自然現象?」


「うん」


 リカが首を傾げる。


 その反応を見て、レンは少し考えた。


「例えば、水」


「水?」


「リカ。水って何だと思う?」


「……水は水でしょ?」


「じゃあ、あの池にあるのは?」


「水」


「雨は?」


「水」


「氷は?」


「氷」


「でも、氷も元は水だよね」


 リカが黙る。


「冷やしたら氷になる」


「……そうね」


「逆に、温めると見えなくなって空に上がる」


「見えなくなる?」


「うん。今、この空気の中にも水はあるよ」


「え?」


 リカが、周囲を見回した。


 もちろん、水らしいものは何も見えない。


「どこに?」


「見えないけどね」


「見えないのにあるの?」


「あるよ」


 レンは空を見上げた。


「空にある水が集まって、雲になる」


「……雲」


「雲から雨が降る」


 リカは黙ったまま、空を見上げる。


「同じ水でも、いろんな形があるんだよ」


「……」


「だから、俺は水魔法を使うときも、ただ水を出そうって考えてるわけじゃない」


「じゃあ、何を考えてるの?」


「水ってどういうものか、かな」


 リカはレンの顔を見る。


「……難しいことを言うわね」


「そう?」


「そうよ」


 レンは少し考えた。


「じゃあ、風は?」


「風?」


「風って何?」


「風は……風でしょ?」


「違うよ」


「違うの?」


「風は、空気が動くことだと思う」


「空気?」


「うん」


「でも、空気なんて見えないわよ?」


「見えないけど、あるでしょ?」


「……」


 リカは何も言わない。


 レンは手を前に出した。


「こうやって手を動かすと、風を感じるよね?」


「うん」


「でも、何もないところから風が生まれたわけじゃない」


「……」


「もともとある空気が動いたんだと思う」


 レン自身、詳しいことまでは分からない。


 前世で専門的な勉強をしていたわけでもない。


 ただ、今の自分よりは知っている。


 火が燃える理由。


 水が氷になること。


 空気が存在すること。


 当たり前だと思っていたことを、この世界のリカは知らない。


「火もそうだよ」


「火は?」


「火は……」


 レンは少し言葉に詰まった。


「……俺も、ちゃんとは説明できない」


「できないの?」


「うん」


「なんなのよ」


 リカが呆れたような顔をする。


「でも、燃えるものがあって、熱が出て、明るくなる」


「……」


「そういうことを知ってる方が、ただ『火を出そう』って考えるより、正確に火を再現できると思う」


 リカは黙った。


 そして、自分の手を見る。


「……」


「リカ?」


「ちょっと考えてるの」


「ごめん」


「なんで謝るのよ」


「いや」


 レンは苦笑した。


 しばらくして、リカが口を開いた。


「私、魔法を使うとき」


「うん」


「詠唱を間違えないようにしてる」


「そうなんだ」


「魔法書に書いてある通りに、正確に」


「うん」


「そうすると、魔力が上手く動くの」


 レンは頷いた。


 それは昨日、なんとなく感じていた。


 リカの魔法は、自分とは明らかに違う。


 魔力の動きが、妙に細かい。


 もちろん、なぜそんなことができるのかは分からない。


 鑑定で見た《魔力操作》というスキルのことは、まだ誰にも話していない。


「詠唱すると、頭の中で魔法を作りやすくなるの?」


「……そうかも」


「じゃあ、詠唱もイメージの一部なのかもしれないね」


「イメージの?」


「うん」


 レンは少し考えてから言った。


「俺は、詠唱しなくても頭の中で作れる」


「……」


「リカは詠唱することで、もっと正確に作れる」


「……」


「やり方は違うけど、やってることは同じなのかも」


 リカはしばらく黙っていた。


 やがて、小さく呟く。


「……補助輪」


「え?」


「さっき、言ってたでしょ」


「ああ」


「詠唱が補助輪みたいなものって」


「うん」


 リカは少し考え込む。


「じゃあ……レンは補助輪なしで走ってるの?」


「たぶん」


「私は補助輪を使ってる?」


「そういうことになるかな」


「……」


 リカの表情が少しだけ険しくなる。


「でも、それって私が下手ってこと?」


「違うよ」


 レンはすぐに否定した。


「リカはすごいと思う」


「……急に何よ」


「俺、リカみたいに細かく魔力を動かせないから」


 それは本当だ。


 魔力の量なら、レンの方が圧倒的に多い。


 だが、魔力をどう動かすかについては、リカの方が明らかに上手い。


「リカが自然現象のことをもっと知ったら」


 レンは言った。


「もっとすごい魔法が使えるようになると思う」


「……本当に?」


「うん」


「どうして?」


「リカは、魔法を正確に作るのが得意だから」


「……」


「火が何なのか」


「水が何なのか」


「風が何なのか」


「ちゃんと理解できれば、もっと細かく再現できると思う」


 リカはレンを見た。


 その表情は、少しだけ真剣だった。


「……じゃあ」


「うん?」


「私に教えなさい」


「何を?」


「自然現象」


 レンが瞬きをする。


「え?」


「だから、火とか水とか風とか」


「うん」


「私に教えなさい」


 なぜか、少し偉そうだった。


「……いいけど」


「その代わり」


 リカが胸を張る。


「私が魔力操作を教えてあげる」


「……教えてくれるの?」


「仕方ないでしょ」


「なんで?」


「レンは魔力の使い方が雑だから」


「雑かな?」


「雑よ」


 即答だった。


「でも、使えてるよ?」


「たくさん魔力があるからでしょ」


「そうだけど」


「たくさんあるからって、適当に使っていいわけじゃないの」


「……なるほど」


「分かった?」


「うん」


「よろしい」


 リカが満足そうに頷いた。


 五歳の少女が、三歳のレンを見下ろしている。


 実際、身長もリカの方が高い。


「じゃあ、今日は水から教えて」


「今日から?」


「今日から」


「……分かった」


 レンが頷く。


 リカも頷いた。


 自然現象について教える。


 代わりに、魔力操作を教えてもらう。


 それだけのことだ。


 けれど。


 二人にとっては、それが初めての約束だった。


     *


 しばらくして。


 庭の入口に、二人の姿が現れた。


「……随分、話が盛り上がっているようだな」


 ギルスが呟く。


「そうですね」


 レギオンが答えた。


 庭の中央では、リカとレンが向かい合っている。


 何かを真剣に話しているらしい。


 リカが手を動かす。


 レンも、それを真似する。


「……」


 ギルスは腕を組んだ。


「……レギオン」


「はい」


「お前の息子、本当に三歳か?」


「三歳です」


「……そうか」


 ギルスは、どこか納得できないような顔をした。


 その隣で、ミレーユが小さく笑う。


「ふふ」


「何だ?」


「仲良くなれたみたいで、よかったなって」


「……」


 ギルスは庭を見る。


 そこでは、リカが何かを言い、レンが困ったような顔をしていた。


 そして二人とも、なぜか楽しそうだった。


「……まあ」


 ギルスは小さく息を吐く。


「今は、友達ということでいいか」


 誰に言うでもなく、そう呟いた。


 レギオンは少しだけ笑った。


 ミレーユは、また小さく笑った。


 庭では。


「だから、もっとゆっくり魔力を動かすの!」


「こう?」


「違う!」


 リカの声が響いた。


 レンの魔法の勉強は。


 どうやら、今日から始まるらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。