四話 虚構廃線
地下鉄の入り口階段を下っていくと、地上の騒がしさが徐々に遠ざかった。
地下鉄の停留所は少し寒い。
「電車来たよ」
───電車はプシューと音を立てる。
人が流れる川のように電車に乗る。
電車が間もなく発車するという早口の簡単なアナウンスがあり、やがて旧弊な大型動物が目覚めて身震いするみたいに、ぶるぶるという大げさな音を立てて車両のドアが閉まった。
二人が席に座り少し経つと、地下鉄の、オルガンの低音を押さえ続けているような低い震動音が少しずつ鳴り響く。
「──この電車は■■方面■■行きです。次は…」
ノイズが走る。
「ツぎは縺阪&繧峨℃鬧…です」
澪が放送アンプを睨む。
「これは……」
周囲を見渡すと、セイカと澪以外、気を失っている様子だった。
「セイカちゃん、これはやばい」
「怪異ですか?」
「恐らく『場所的怪異』だ」
「場所的怪異ですか……」
「意味はそのまんまだ。場所の怪異」
「強いんですか?」
澪は少し俯いた。
そして恐怖と覚悟が入り混じったような顔で言った。
「弱くても甲種に入るレベルだよ……」
「───まもなく、縺阪&繧峨℃鬧です」
澪は腕時計をいじり始めた。
「何してるんですか?」
「ナズナさんに救助信号を送ってる」
カチッカチッという秒針がズレる音がいくつにも重なって聞こえる。
澪が手を止める。
すると秒針が動き出した。
ひとつ進み、また進み、戻り、進み……
澪の顔を覗くとひどい顔をしていた。
「セイカちゃん…きさらぎ駅って聞いたことあるでしょ?」
「はい……」
「ナズナさんが言うには『きさらぎ駅派生型怪異』らしい」
「きさらぎ駅の恐怖が、きさらぎ駅という存在だけだと抑えきれなくて、恐怖が溢れ出した派生的な存在」
「推測だけど甲種3類くらいだって……」
と言われるセイカだが、どのくらい強いのか想像がつかない。
「それってどのくらいの強さなんですか…?」
「……町一つ壊滅するくらい、かな」
「でも場所的怪異だから通常の怪異と比較するのはちょっと違うかもね」
───キーーッという音が鳴り響く。
電車が目的地に着いたようだ。
左側の扉が開く。
怪異が入り込む危険性があったのにもかかわらず、着いてからも二人は少しの間席に座っていた。
やがて澪は覚悟を決めたように勢い良く立ち上がった。
「セイカちゃん、行けそう?」
「はい」
薄暗い地下鉄のホームに、二人は足を踏み出した。




