三話 改札口
待合室の扉が規則正しく間をおいて三度ノックされた。
「失礼します」
「どうぞ~」
ナズナは軽い返事をすると、扉がゆっくりと開いた。
そこには高校生くらいの、木箱をぶら下げた、漆黒に近いストレートのロングヘアの女性が立っていた。
「澪ちゃん、こっちおいで」
ナズナが手招きをする。
「この子が先輩の澪ちゃん」
セイカは澪と眼を合わせ、あいさつを交わした。
澪の眼は瞳の奥に「白く霞む光」が揺らめいていた。
澪の眼を見ていると、何だか懐かしい感じがしてきた。
「澪ちゃんはちょっと特殊でね……怪異媒体っていうんだけど……」
「怪異媒体?」
「青年期に怪異に直接的、または間接的に育てられた人間のことを言うんだ」
「澪ちゃんは九尾の狐の怪異に育てられたんだよ」
「そうなんですね……」
澪は人のプライバシーを軽々と話す軽率なナズナに少々苛立ちを覚えているようだった。
「というか、セイカちゃんは怪異と言ってもそんなに驚かないんだね」
「澪ちゃんは一生懸命怪異について説明する私をとても訝しんでいた……懐かしいなぁ」
「オカルト系の話が昔から好きだったので……」
ナズナは床を蹴るようにして椅子から立ち上がった。
「武器を用意しないとだ」
「少し待ってて」
弦の切れたような勢いでとび出して行った。
この間、およそ3秒。
何もかもが早かった。
そして二人だけの空間になった。
ぎこちない沈黙がしばらくそこに続く。
その沈黙に緊張して心臓がどきどきするのが分かる。
「あの……」
「何?」
ドキッとして心臓が止まった心地だ。
「入社してすぐ初任務って……きつくないですか」
どんな返答が返ってくるだろう。
同感してくれるか、当たり前のことだと突き放されるか。
セイカは澪を眼を見る。
「ん…まぁ、そんくらいこの界隈はギリギリってこと」
「あんなナズナさんみたいな人が副所長だし」
「しかも初任務というよりは訓練みたいな感じだから、安心して」
緊張が潮が引くように消えていく。
セイカは一瞬澪のほうを向くが、すぐに目線を壁の方へ移動した。
「セイカちゃ~ん」
その声に驚き、振り返るとナズナさんが立っていた。
「え……いつから?」
「んー?さぁ?」
あまりにも雑な返事であった。
ナズナは長椅子に座っている二人の間から何かを出した。
……刀だ。
「これですか…武器って」
「銃刀法の心配はしないで」
「その制服につける腕章は見る人によって文字が変わるから」
「その刀を持っていて正しい人として見えるはずだ」
「そうですかね…」
ナズナは、セイカの物分かり良く、うなずいた。
「しかもセイカちゃんだったらなんとなくで使えると思うよ」
「…あ、じゃあお二人とも、そろそろ時間だよ」
「電車使って移動してね」
「分かりました」
拳をぎゅっと握り、待合室を後にした。
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駅は満員の浴場のように混雑していた。
やっとの思いで改札口まで来ることができた。
澪は改札機にICカードをタッチさせる。
その瞬間……ピー!!
「あ…」
絶望の瞬間であった。




