二十五話 入口
怪異事務管理所の入り口は二つある。
一。空間を入り口にする。
二。怪異事務管理所の入口とどこかしらの入口を紐づける。
一つ目の方法は、ナズナさんなどの、怪異事務管理所の上澄みや局長など、極一部の人しか使うことが許されていない。
そのため、私は学校のとある階段の先に存在している、元々どこにつながっていたのかすら分からない扉から怪異事務管理所に行っている。
私は朝食を食べた後、少し暇をつぶして、今、怪異事務管理所に向かっている。
今日は日曜日で、学校は閉め切っている。
だからこれから不法侵入するというわけだった。
いつも開いている保健室横の部屋の窓。
そこはいつも通り開いていた。
白いカーテンが風によって旗のようになびいていて、ここから入れるよ、という目印になっているように見えた。
中に入り、廊下に出る。
電気がついておらず、日が出ているのに暗い。
明るい中に影があるというより、暗い中に薄光が差し込んでいるという表現のほうが正しいだろう。
いつもと違った、非日常を味わいながら、例の階段の場所へ行く。
階段。設計ミスかの如く、突如壁に階段が現れる。
窓からの光も入らず、階段はまさに、お先真っ暗といった感じだ。
そこを進んで行くとやがて扉が現れる。
やがてといっても少し階段を上っただけだけど、暗闇による相乗効果か何かで、より長く感じられるんだろう。
ドアノブに手をかけ、奥に押し込む。
相対的に閃光とでも呼べる光が私を襲う。
そして、その閃光が薄れたとき、怪異事務管理所の入り口にいつの間にか立っている。
騒がしい。
いつにも増して騒がしい。第二告の予感。それの影響だろう。
急いでナズナさんの所へ向かう。
ナズナさんのデスクには、二人が立っていた。
ナズナさん、それからカスミさん。
「あ、セイカちゃん!今呼ぼうとしていたんだよ!」
「ナズナさん……」
「ナズナ先輩。それで……」
「ああ、そうだったね。多分セイカちゃんもニュースを見たから来たんだろうけど」
無言で首を縦に振る。
「そう、輸血パックを媒介とした記憶の混入。おそらく、というか怪異絡みだとしか考えられない。しかもセイカちゃんとカスミちゃんの血と怪異についての話」
「これほどの被害が出てるということは……」
「七告ということだろう。第二告が始まったんだ」
「あと五告……」
「まあ、終わりまでは抗い続けよう。いったん情報を整理する」
今までの内部資料や、ナズナさんの会話メモなどをデスクに並べる。
「まず、予測だけど……今回のニュースや、セイカちゃん、カスミちゃんのことから考えると、おそらく第二告の現象は『血』が媒介として怪異現象を起こす。しかも一般人にも、目に見えた被害が出ている。相当、厄介だ」
「単純に血というだけなんですかね?もっとこう、なにか捻った考え方とかない?」
「いや、このくらいシンプルのほうがいい。今下手に付け足せば、今後情報が追加されたとき、真実とはかけ離れた分岐をたどってしまう可能性がある」
「確かに……それはそうですね」
「────あ、セイカちゃん。あれ以来音は聞いたのかな?」
「あー……聞いてないですね。なんでだろ……?」
「七告ではないということでは?」
「いや、あのワンピースの怪異の時に異常なほどの音が聞えたらしいから、それはない」
「じゃあなんで?」
「多分、七告の音が聞こえるのは、告げる使者みたいなのが近くにいるとき、特に聞こえるんだと思います」
「もしかしたら、その使者に関連したものの近くにいても聞こえるのかもしれないね」
こうやって長く話していくうちに、この三人の中で完結させていい話ではないと、全員思っていただろう。
「これは、局長会議にしませんか?」
「……そうだね、カスミちゃん。また、あの……なんだっけ?統括怪異の~……柊セツナだ。あの子は重要参考人のようなものだから」
「じゃあ取り敢えず今日はお開き!」
「分かりました」
「そうそう、カスミちゃんはこれ」
「なんですか?これ」
朱色に金の装飾が入った御守。
「祭務局に頼んで作ってもらったんだ。特製の、夢視を視ないようにする」
「え、こんなのあったんですか?」
「いや、今まで研究してもらってたんだよ?でも夢視のサンプルがなくてどういう方法をとればいいのか分からなかったから遅れちゃったらしい」
「それはまあ、しょうがないですね。ありがとうございます」
ナズナさんがこっちに目線を変える。
「……セイカちゃん」
「はい」
「これから、大変だろうけど、頑張って。音のことは何か軽減させる策を考えるよ」
「あっありがとうございます!」
嬉しかった。
誰かが、自分のために何かを考えてくれる、何か行動を起こしてくれる。
それがただただ、嬉しくてしょうがなかった。




