二十三話 合流
私は夢視ができる。
無視ができるからといって、何か偉業がなせるわけでもない。
ただ、特別な夢を見られるだけなのだから。
最近、一貫して視る夢がある。
赤い雨の夢。
雨が降り、それが町中に巡る。
いたるところまで、隙間なく。
それは、螺旋状に広がっていって、やがて全てを飲み尽くす。
逃げられない。逃げ場がない。
夢視としてみるという以上、何かの怪異と繋がっているということを意味する。
ただ、今までと違うところは本体がいない。
普通、私の視る場合は、怪異にはしっかりとした体がある。
ぼやけていたりしていることはあるものの、それは体として認識できるくらいには存在しているのだ。
だが、今回はそういうのすらない、雨。
場所的怪異などの可能性もあるが、なにしろ前例がない。
前例がないことを考える以上、サンプルが必要だ。
だがやはり前例がないということはサンプルがないことにつながる。
……もう別にこの現象の解明にこだわる必要はないと感じてきた。
報告も面倒くさいし……この事は寝て忘れることにしよう。
いや、寝たらまた視る可能性もあるけれど。
というか視る可能性のほうが高いのだけれど。
ベットに潜る。
数分の間、しっかりと意識がある。
視界は真っ暗。
真っ暗な中に幾つものの光がもわもわと浮かび上がる。そして、徐々に視界が色づいてくる。
どんどんと、どんどんとカラフルに。
最初は水を含みすぎた絵の具が滲んでいるようにぼやけているけれど、だんだんと鮮明になっていく。
地面、建物、全ての輪郭がハッキリとして、色が的確に塗り分けられていく。
自分の中で世界が構築されるが、それは一つの世界としては収束しない。
無限に変わり続ける。
ザーーーーーーーーーーーーー
雨だ。赤い。
赤色が滲んでいく。
世界を滲ませて。世界というキャンバスはカオスに統一されていく。
いつも通りだ。
─────いや、何かが違う。
雨が、若干鉄臭い。
匂いなんてしなかった。
そして妙に馴染む。
この体に馴染んでいるのだ。とても。
ザーーーーーーーーーーーーー
そんなことを考えている間も、雨はずっと──────降り続ける。
ポチャ ポチャ
ポチャ
ポチャン
トトトト
違う音が混じっている。
セイカちゃんに言わせてみれば「そこだけ音が違って鳴っている」とか言うだろう。
その方向を見て見た。
そこにいたのは、白いワンピースを着た何かだった。
その何かは認識することができなかった。
夢と現実の間みたいに、存在自体がぼやけていた。
見えないのに、独特の雰囲気を発している事は分かる。
いや、見えないからこそ独特な雰囲気を醸し出しているのだろう。
背中だけが見えていて、そこが皿とでもいうように、雨を受け止めている。
そのせいで背中は真っ赤だ。
この空間はなんとなく居心地が悪い。
なぜかは分からないが、妙な安心感が湧いてくるのが、心底気持ち悪い。
あたまに、こどものころのきおく。
たのしいあのころがまた、もどってきたかんじがする。
軽く吐いた。
おえっと。
少し気持ちが楽になった。
でも、これ以上はダメな気がする。
そろそろ起きよう。
世界が崩れる。
カオスが混ざり合う。
そして一つの真っ黒な色になる。
全てはここから。
全てはここまで。
ベットから起き上がった。
全て、夢──────
そういうわけにはいかない場合もある。
すぐに携帯を手に取った。
先輩に電話をつなぐ。
3コールくらいで出た。
「あ、ナズナ先輩?」
「カスミちゃん、どうかした?」
「いつも通り、夢視で怪異と接触してたんですけど……ここ最近同じやつばっかりで、しかも場所的怪異みたいな感じで本体がないんですよね。しかも危害らしい危害が加えてこなかったのでただの夢の可能性もあるかなぁなんて思ってもいたんですけれど、今日夢が変化してたんです。白いワンピースを纏った、本体っぽい奴が出現して、気持ち悪くなったり……」
「なんだそれ……?」
「私にも分からないんですよ、なにしろ場所的怪異を視た前例がなくて、どういう系統の怪異なのか断定ができないんです」
「うーん……夢視できる人とかあんまりいないからなあ」
「過去に祭務局で夢視できる人を集まらせて怪異を対処しようとさせたけど全員死んだみたいな」
「そうそう……そうなんだけどあんまり触れないほうがいいあの事件は。そもそも夢視自体が、しっかりとした睡眠をとることができない。かなり体力を消費するから寝ていないよりも疲れる」
「そうなんですね……あんまりそういうのはありませんでした」
知らなかった。今まで夢視を視てきたが、疲れたと感じたことはない。
「うん、だから夢視はあまりやらないほうがいいよ」
とは言われたものの、私自身、夢視の発動条件がわからない。
自分の意志で視ているわけではない。
その旨を話した。
「そうなの……?祭務局の事件だと全員視ていたらしいから、自分の意志で視ているんだと思っていたけど」
「多分、怪異の存在が近いとみるんだと思います」
「……そっか、セイカちゃんのも、自分の意志ではなく、しかも七告が近いと聞こえるんだもんね」
「結構似ていますね。どこで怪異の情報を受け取るのか。その違いですか」
「うん……あ、ごめんセイカちゃんからも電話かかってきたから切っていい?」
「ああ、はい。全然OKです……」
プチッ
うーん。
今の話聞いたせいか分からないけど、肩が重いなぁ。
すごい疲れた感じがする。
そんな今までなかったんだけど……。
また眠いよ……。
でも寝たらまた視る可能性もあるし、視たら多分、疲れてまた寝る。
無限ループじゃないか。そんなの受け入れられない。
……頭がボーっとする。
働かねぇー……。
プルルルル
プルルルル
「オワッ」
普通にビビった。
ナズナ先輩からだ。
「はい?どうしまし──────」
「セイカちゃんが場所的怪異に遭ったり、白いワンピースのやつを見たらしい。吐血とか音が異常なほど聞こえたりしたって」
「本当ですか?」
「うん。白いワンピースを着た、存在が曖昧なやつと遭遇したと。それでいろいろ体に異常が発生して、何とかして家に帰ってきて、私に連絡をくれた」
存在が曖昧。
私はそれを、何度も反芻する。
「その、白いワンピースもそうですけど、存在が曖昧っていうのもそういえばありました」
「同じものを見たわけか……」
「おそらくそうでしょうね」
「しかも二人とも、今まで以上に、異常なほどの体調不良起きている」
「これはつまり……かなり強力な怪異が近づいているということですか?」
「怪異というか、おそらく七告だろう。前セイカちゃんから『一告目は終わったかもしれない』と言われた」
「じゃあつまり二告目が始まったということですか」
「そうだろう」
「どうするんですか」
「……とりあえず各局長に連絡を入れておく。カスミちゃんはとりあえず大丈夫。また後で連絡するよ」
「はい、分かりました」
「じゃあ切るね」
ツーツーツー……
二告目が本格的に始まるとしたら、夢視をするとおそらく、酷い目に遭うだろう。
絶対に夢視をしない。そんなことできるのだろうか。




