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怪異事務管理所  作者: channel
第二告前
21/24

二十一話 一時不停止

 現在の時刻は午前5時。

 今日は宇宙の日らしい。

 だから何だという話なのだけれど。

 宇宙というと、私は、UFOや宇宙人を連想する。

 あとは、空間のほとんどが空白で、スペースが広がっているだけらしい。

 空白の多さと同時に、謎が多いということもある。

 『謎が多い』という点では、怪異も同じだ。

 というか、怪異の方がわかっていないことが多いのではないか?

 宇宙は観測できるが、怪異は普通、観測できない。宇宙は、遠くても見える。でも怪異は、すぐ近くにあっても見えない。

 だが、その本来観測不可能な怪異を観測し、管理する。そう考えると、怪異事務管理所もかなり謎が多い。

 そんなことを言ってしまうと、もう七告とかは何なのかという話になるが……これ以上考えると、収拾がつかなくなる気がした。


 ふと、散歩に行きたいと思った。

 まぁ健康的に過ごすためには散歩は欠かせないし、やって損はないだろう。 

 空に太陽は昇っていないものの、空は薄く白い。夜と朝の境界線。

 その輪郭は、あまりにも曖昧であるけれど、確かに露呈し始めている。

 

 田舎特有の静けさと、人の少なさが相まってか、どこか、非日常的な感覚が襲ってくる。

 この感覚が、私は好きだ。

 でも、一概に非日常的が良いとは言えない。

 非日常的とはすなわち、日常的でない特別なこと。それには怪異が含まれているから。

 いやまあ、最近はこの怪異というのが日常にありつつあると言えるのだけれども。だからといって、怪異に対しての危機感がなくなったわけでもないのだけれども。

 ただ、非日常的が、日常的に干渉するのが嫌だ、というか。マンネリ化に近い何か……そういう感じだ。


 さっきまでは民家が密集していたが、どんどんと、空白が多くなっていく。

 恐らく、久良市を南下しているからだろう。

 どんどんと平地へ向かっていく。


 歩いていると、広大な田んぼの中にある一本道に来た。

 今は、夏と秋の境界線、接続地点。バトンゾーンだ。

 

 いつの間にか空は青く澄んでいた。

 一定間隔で並ぶ白い電柱が、歪んだ規則性を保ったまま、前の方に途切れず続いていた。

 まるで、あの時の学校の電話のように。

 柱の奥から聞こえるエンジン音と人の声は、録音された音声を再生しているかのように、同じ数秒だけを何度も何度も繰り返している。

 横には向日葵が隙間なく並び、壁のように揺れていた。

 静かな道を歩くたび、足音だけが妙に消える。

 ふと顔を上げると、向日葵の壁がいつの間にかすべて『止まれ』の標識に変わっていた。

 風も吹いていないのに、標識だけがわずかに揺れていた。

 

 すぐにこれは異常だと気付いたし。同時に、二度目の場所的怪異との遭遇だと分かった。

 七告だろうか?いや、音が聞こえていないから違うだろう。

 幾つにも連なる『止まれ』の文字が、私を押しつぶすような感覚に陥る。

 軽い散歩をするだけのつもりだったから、携帯などはもってきていない。

 そして、怪異事務管理所に入ったからといって、怪異を対処できるというわけではないのだ。

 あのきさらぎ駅とは違う。あの時は、武器もあったし、コアのようなものが丸出しだった。最も、一番に言えるのは、先輩が同行してくれていたことだろう。

 今の私には、そのすべてがない。

 頭に浮かんだのは『絶望』という二文字。


 私の目には何が映っているだろう。

 何が現実で、何が現実でないんだろう。

 怪異というのは現実なのだろうか。

 現実逃避という言葉があるが、今それをしてしまうと、決して後戻りできないことになるだろう。

 

 とりあえずは止まる。

 それが一番の、この怪異が求めていることだ。

 変に逆らわないほうがいいと私は悟った。


「……」

  

 止まっている。

 止まっているが何も起こらない。

 いや、止まっているから何も起こらないだけかもしれない。

 だとしたら、この怪異の目的はなんなのか分からない。

 そもそも、怪異という存在は目的をもって動いているのか?


「……」


 そういえば憶境界とか何とか、澪先輩言っていたな。

 あの時ってどうしてたんだろう……?

 覚えてないな。


 標識の文字はまだ『止まれ』であった。

 

 場所的怪異は必ずもとになる恐怖と場所の器があるはずだ。

 それはなんだ?

 

 田んぼ、電柱、向日葵、標識。


 だめだ……何も思い浮かばない。

 いくら頭の引き出しを探っても、何も見つからない。


 もう、動くか。

 このまま餓死するよりはマシだろう。

 

 一歩だけ。ほんの一歩だけ左足を出した。


 標識は『止まれ』から、ノイズが走ったように歪み始め、常に座標が入れ替わっているようなほどに標識が入れ替わっていく。段々とミキサーのように混ぜ合わさっていき。やがて一つの標識に収束した。


 それは青い歩行者専用の標識だった。


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