第七十話「街道を守る者」
そろそろ朔也の戦闘が見たくなってきました。
商人が運び込まれた直後。
評定の間には重い空気が流れていた。
朔也、宗二、雷堂、陣内、悠真、剛、舞、茜が集まっている。
先ほど救助された商人も治療を受けながら、その場に座っていた。
「落ち着いて話してくれ」
宗二が穏やかに声を掛ける。
商人はゆっくりと頷いた。
「襲われたのは北の街道です。」
「白金領まで、あと半日ほどという場所でした。」
陣内は地図を広げる。
「この辺りか。」
商人は地図を指差した。
「はい。」
「街道の両脇は林になっていて、突然飛び出してきました。」
「人数は?」
雷堂が尋ねる。
「十人……いや十五人ほどです。」
「全員が武器を持っていました。」
「そうか」
「ほかに知っていることはないか?」
商人は少し呼吸を整えると、思い出すように口を開いた。
「今思えば……妙でした。」
「妙?」
宗二が問い返す。
「盗賊なのに、無駄なことをしないんです。」
「積み荷だけを狙っていました。」
「抵抗した護衛は倒しましたが、とどめは刺さなかった。」
「金目の物も奪われましたが、一番先に運び出したのは穀物でした。」
悠真が静かに目を細める。
「穀物を優先したか。」
商人は頷く。
「はい。」
「それに、一人の男が次々と指示を出していました。」
「『それは置いていけ』『そっちを運べ』『長居するな』と。」
「他の者たちは迷うことなく従っていました。」
陣内が腕を組む。
「統率が取れているな。」
悠真も静かに頷いた。
「盗賊というより、小さな軍勢だ。」
「頭がいる。」
その一言で、部屋の空気がさらに引き締まった。
全員が静かに頷く。
「ただの野盗ではないな。」
部屋の空気が少し引き締まった。
ーーー
話を聞き終えた後。
陣内が静かに口を開く。
「実は気になる話がある。」
全員の視線が集まる。
「ここ数日、北街道を避ける商人が増えていた。」
「もっと早く報告すべきだった。」
少し悔しそうに俯く。
「襲撃は今回が初めてじゃないのか。」
雷堂が腕を組む。
陣内は頷いた。
「小さな被害は何件か起きていたらしい。」
「だが皆、自分たちで諦めていた。」
「まさかここまで大きくなるとは思わなかった。」
朔也は静かに目を閉じる。
「俺たちの責任だ。」
剛は首を振った。
「違います。」
「白金領が急激に発展したからこそ起きたことです。」
「誰にも予想できませんでした。」
それでも朔也の表情は晴れなかった。
「俺たちがもっと早く気付けていたら。」
そう呟く姿を、悠真は静かに見つめていた。
ーーー
その日の午後。
茜と陣内は情報収集のため城下町へ向かっていた。
市場では商人たちが集まり、不安そうに話している。
「また盗賊が出たらしい。」
「最近、この街道は危ない。」
「白金領へ行くのは命懸けだ。」
そんな声があちこちから聞こえてくる。
茜は商人へ近付いた。
「すみません。」
「少しお話を聞かせてもらえませんか?」
商人たちは顔を見合わせる。
やがて年配の商人が口を開いた。
「実は二週間ほど前にも襲われた。」
「荷は少し奪われただけだった。」
「被害が小さかったから、そのままにしてしまった。」
「他にも?」
茜が尋ねる。
「ある。」
「皆、泣き寝入りしてる。」
「盗賊を討伐してくれる領主なんて、今までいなかったからな。」
その言葉を聞いた茜は表情を引き締めた。
「ありがとうございます。」
「必ず伝えます。」
ーーー
その日の午後。
悠真は一人、北の街道へ足を運んでいた。
襲撃現場には、まだ荷車の車輪跡が深く残っている。
しゃがみ込み、土へ手を当てる。
「……。」
街道脇へ視線を移す。
踏み固められた草。
折れた枝。
馬の蹄の跡。
悠真はゆっくり立ち上がった。
「十五人前後。」
小さく呟く。
さらに林の奥へ進む。
そこには消えかけた焚き火の跡が残っていた。
「近くに潜伏しているな。」
足跡は北西へ続いている。
逃走経路まで計算していたのだろう。
「場当たり的な盗賊ではない。」
「誰かが考えて動かしている。」
悠真は空を見上げた。
「また襲う。」
その確信だけは揺るがなかった。
ーーー
夕方。
茜と陣内は城へ戻ってきた。
評定の間では全員が待っていた。
「分かりました。」
茜が報告する。
「今回だけじゃありません。」
「少なくとも三件以上。」
「皆、同じ盗賊団に襲われています。」
陣内も続ける。
「しかも狙われているのは。」
「白金領へ向かう商隊ばかりとのことだ。」
宗二が静かに頷く。
「偶然ではないな。」
悠真が地図を見ながら口を開く。
「白金領へ人と物が集まる。」
「だから、この街道を縄張りにした。」
「放置すれば被害は必ず増える。」
雷堂は拳を握る。
「なら答えは一つだ。」
「討つ。」
短い一言だった。
ーーー
部屋は静まり返る。
朔也はゆっくりと立ち上がった。
皆の顔を見渡す。
「この街道は。」
「白金領へ来てくれる人たちの道だ。」
「希望を持って来る人。」
「商売をしに来る人。」
「新しい暮らしを始めようとする人。」
「その道を危険なままにはしておけない。」
一度息を吸う。
「盗賊を討伐する。」
その一言に家臣たちは力強く頷いた。
「宗二さんは討伐計画を。」
「陣内さんと茜は盗賊の居場所を。」
「雷堂さん、悠真は戦闘準備。」
「剛は兵の編成をお願い。」
「承知!」
全員が一斉に動き始める。
評定の間には、迷いはもうなかった。
白金領を守るため。
そして、この地へ続く道を守るため。
朔也たちは、初めて自ら盗賊討伐へ乗り出すのだった。
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