第六十九話「襲われた商隊」
翌朝。
白金領へ続く北の街道。
数台の荷馬車がゆっくりと進んでいた。
荷台には穀物や木材、布などの物資が積まれている。
商人たちの表情は明るかった。
「最近は本当に忙しくなったな」
先頭を歩く商人が笑いながら荷馬を撫でた。
「白金領からの注文が増えたからな」
隣を歩く仲間も笑う。
「穀物だけじゃない。木材に布、それに農具まで売れる」
「前は通る人も少ない街道だったのにな」
護衛の男も肩の力を抜く。
「領主が変わるだけで、ここまで変わるとは思わなかった」
荷台には大量の穀物が積まれていた。
「この荷も全部、白金領へ届ける分だ」
「冬に備えて備蓄を増やすらしい」
「住む人が増えてるって話だしな」
商人たちは明るく笑い合う。
「この調子なら、来月はもっと荷を持ってこよう」
誰もが、この旅は無事に終わると信じていた。
ーーー
その頃。
街道脇の林の中。
数人の男たちが身を潜めていた。
「昔はこの街道なんて何日待っても誰も通らなかった。」
「最近は違う。」
「白金領のおかげで商人が勝手に集まってくる。」
「俺たちは待ってるだけでいい。」
全員が粗末な鎧を身につけ、刃こぼれした刀や槍を手にしている。
男たちがしばらく待つと、荷馬車の音がしてきた。
「来たぞ」
一人が低く呟く。
先頭の男が口元を歪めた。
「最近、この道は獲物が多い」
「荷だけ奪え」
「無駄な殺しはするな」
男たちは静かに頷いた。
次の瞬間だった。
「今だ!」
男たちが一斉に街道へ飛び出す。
「盗賊だ!」
商人たちが悲鳴を上げる。
馬が驚いて暴れ出し、荷馬車が大きく揺れた。
護衛が剣を抜く。
しかし人数が足りない。
「荷を置いて行け!」
盗賊たちは慣れた動きで商隊を囲んでいく。
「くそっ!」
護衛の一人が盗賊へ斬りかかる。
だが相手は素早くかわし、柄で腹を打ち据えた。
「ぐっ……!」
護衛が膝をつく。
商人たちは荷車の陰へ身を隠す。
「助けてくれ!」
子どもの泣き声も響く。
盗賊たちは荷台へ飛びつく。
「穀物だ!」
「全部持っていけ!」
袋が次々と荷馬車から降ろされる。
それを見た年配の商人が思わず叫んだ。
「待ってくれ!」
「その穀物は白金領の人たちへ届ける物なんだ!」
「移住者も増えて、冬支度に必要なんだ!」
盗賊の一人が鼻で笑う。
「知るか。」
「俺たちは金になれば何でもいい。」
そう言って穀物袋を肩へ担ぐ。
商人は力なく膝をついた。
「これじゃ……約束が守れない……。」
白金領へ必ず届ける。
そう約束していた荷だった。
その姿を見ていた若い護衛は歯を食いしばる。
「くそっ……!」
しかし傷だらけの体では立ち上がることすらできなかった。
ーーー
昼過ぎ。
白金城。
城門の外が慌ただしくなっていた。
「開けてくれ!」
「お願いだ!」
門番が急いで外へ向かう。
そこには一人の商人が立っていた。
服は泥だらけ。
額からは血が流れている。
肩で息をしながら、それでも必死に立っていた。
「神谷様に……!」
「神谷朔也様にお会いしたい!」
門番はすぐに城内へ知らせを走らせた。
しばらくして朔也たちが姿を現す。
商人はその場へ崩れ落ちた。
「申し訳ありません……。」
「白金領へ運ぶはずだった穀物が……。」
「盗賊に奪われました……。」
部屋が静まり返る。
宗二がすぐに商人を支える。
「落ち着け。」
「怪我人は?」
「護衛が数人……。」
「皆、街道で手当てを受けています。」
商人は震える声で続けた。
「お願いです……。」
「このままでは誰も白金領へ荷を運れなくなります。」
「街道を……守ってください。」
その言葉を聞いた朔也は、ゆっくりと立ち上がった。
「……分かりました。」
静かな声だった。
だが、その瞳には強い決意が宿っていた。
「白金領へ来る人たちは、俺が必ず守る。」
「ありがとうございます... この恩は必ずや」
そのまま商人は気を失った。
ーーー
「……やっぱり来たか」
昨日、評定で話し合ったばかりだった。
人が集まれば。
物も集まる。
そして、それを狙う者も現れる。
その現実が、早くも目の前に現れた。
雷堂が拳を鳴らす。
「盗賊なら話は早い。」
「叩き潰せばいい。」
だが宗二は首を横に振った。
「待て。」
「相手の人数も居場所も分からん。」
「下手に兵を動かせば逃げられるだけだ。」
陣内も頷く。
「まずは情報だ。」
「商人から詳しく話を聞こう。」
悠真は静かに口を開いた。
「襲撃が一度だけとは思えん。」
「味を占めれば、必ずまた現れる。」
その一言に全員が頷く。
朔也は皆を見回した。
「まずは負傷者の救護を最優先。」
「それから盗賊の情報を集めよう。」
「白金領へ来る人たちを、これ以上危険な目には遭わせたくない。」
その決意に、家臣たちは力強く応えた。
「承知!」
こうして白金領は、新たな脅威と向き合うことになる。
人が集まる領地となった今。
守るべきものは、領地の中だけではない。
白金領へ続く街道もまた、
民の命を繋ぐ大切な道となっていた。
その道を脅かす者を。
朔也は決して見過ごすつもりはなかった。
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