第六十八話「変わりゆく景色」
悠真が家臣となってから数日。
白金領には、これまで以上に人の出入りが増えていた。
城下町では商人が忙しく荷を運び、街道では移住を希望する者たちの姿が見られる。
市場も以前より賑わいを増し、子どもたちの笑い声が響いていた。
その様子を城の窓から眺めながら、朔也は小さく笑う。
「本当に人が増えたね」
隣に立つ茜も嬉しそうに頷いた。
「噂を聞いて来たという方が、毎日のように訪れているよ」
「嬉しいことだけど……」
朔也の表情が少しだけ曇る。
「同時に、守らないといけないものも増えてるよね」
その隣にいる舞も静かに頷いた。
「そうだね」
「皆、この領地なら生きていけると信じて来ているから」
「これまで以上に大変になりそうだ...」
「朔也、私もこれまで以上に頑張るから」
「みんなで乗り切ろう!」
「茜ちゃん 朔也、私もいるからね」
「もちろん、舞ちゃんもだよ。がんばろう」
「二人ともありがとう。改めて二人に会えてよかった」
「「朔也」」
朔也は城下を見下ろした。
期待を背負うということ。
それは、守るべき人が増えるということでもあった。
ーーー
その日。評定の間には宗二、雷堂、陣内、剛、悠真、舞が集まっていた。
宗二が帳面を開く。
「まず現状報告だ」
「この一か月で移住者は三十七名」
「商人の往来も以前の倍近くになっている」
陣内も続ける。
「近隣の村や町でも白金領やこの町の評判はかなり広まっている」
「しばらくは人が増え続けるだろう」
「ありがたい話だね」
朔也が笑う。
しかし宗二の表情は真剣だった。
「問題もある」
「食料だ」
部屋の空気が少し引き締まる。
「開墾は進んでいる」
「だが収穫までは時間がかかる」
「今の備蓄なら問題ないが、このまま人が増え続ければ冬は厳しくなる」
雷堂も腕を組んだ。
「住む場所も足りなくなるな」
「城下の空き家も少なくなってきた」
剛も口を開く。
「移住者の中には大工や職人もいます」
「家を建てることはできます」
「ですが木材の確保が必要になります」
一つ解決すれば、また新しい課題が生まれる。
領地をもつ者の課題は途切れることはない。
ーーー
しばらく考え込んでいた朔也が口を開く。
「受け入れを止めるつもりはない」
全員が朔也を見る。
「ここを希望にして来てくれる人を追い返したくない」
「でも、無責任に受け入れることもしない」
宗二は静かに頷く。
「そのためにも、食料と住居の確保を急ぐ必要があります」
「まずは開墾地をさらに広げよう」
朔也が言う。
「それと、新しい住居を建てる場所も決めたい」
剛がすぐに頷いた。
「私も職人たちへ声を掛けます」
悠真も静かに口を開く。
「俺も力を貸そう」
「木の伐採くらいなら慣れている」
雷堂が笑う。
「よし」
「久々に体を動かせそうだ」
部屋の空気が少しだけ明るくなった。
ーーー
評定を終えた後。
悠真は城下町を歩いていた。
市場では今日も多くの人が笑っている。
移住してきた家族が新しい家を掃除していた。
子どもたちは元気に走り回り、領民たちはそれを温かく見守っている。
悠真は静かにその光景を眺めた。
「人が集まるということは」
「それだけ期待を背負うということか」
小さく呟く。
旅をしていた頃は、一人の剣で解決できることばかり考えていた。
だが今は違う。
守るべきものが増えれば、戦う理由も増える。
白金領は今、大きくなろうとしていた。
だからこそ。
試練もまた、大きくなっていくのだろう。
ーーー
その頃。北の街道。
一人の商人が荷馬を走らせていた。
荷台には大量の穀物が積まれている。
「急げ!」
「白金領から注文が増えてるぞ!」
商人たちは活気づいていた。
その様子を、街道脇の林から数人の男たちが見つめている。
「……最近、この道はずいぶん賑やかになったな」
一人が低く呟く。
別の男が不敵に笑った。
「人も物も集まる場所には、金も集まる」
「さて……どう料理してやるか」
男たちは静かに林の奥へ姿を消した。
白金領の発展。それを歓迎しない者たちもまた、少しずつ動き始めていた。
白金領は変わり始めていた。
希望を求める者だけではない。
その変化を利用しようとする者たちもまた、動き始めていた。
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