第六十一話「広がる噂」
白金領の復興は順調に進んでいた。
開墾された畑。
修繕された家々。
賑わいを取り戻しつつある市場。
まだ豊かとは言えない。
それでも数か月前とは比べ物にならなかった。
その日。
朔也は市場を歩いていた。
隣には舞。
少し後ろにはシンの姿もある。
大きなシンの姿に、子どもたちが歓声を上げていた。
「シンー!」
「こっち向いてー!」
子どもたちが駆け寄る。
シンは迷惑そうに尻尾を振った。
だが逃げることはしない。
すっかり城下の人気者になっていた。
「シンも随分慣れたね」
朔也が笑う。
「がう」
するとシンは鼻を鳴らした。
まるで当然だと言わんばかりだった。
「最近はシン目当てで市場に来る子もいるんだよ」
舞が楽しそうに言う。
「それはすごいな」
朔也も苦笑した。
市場には笑顔が増えていた。
それだけでも復興が進んでいる証拠だった。
ーーー
その時だった。
「朔也!」
聞き覚えのある声が響く。
振り返ると晴仁が立っていた。
大きな荷物を抱えている。
「晴仁」
「久しぶりだね」
「久々に帰ってきたぞ。城下町が前と比べものにならないくらい、良い雰囲気じゃないか」
晴仁は以前よりもたくましく見えた。
最近は周辺の村々を回りながら復興支援を行っている。
「晴仁がいない間にいろいろあったんだよね。後で話そうと思うけど、周りの村はどうだった?」
朔也が尋ねる。
晴仁は少し考えた後、答えた。
「いろいろあったが、最近は白金領の噂が広がっていたな」
「噂?」
「そうだ」
「異形の領主様がいる領地」
「流民を受け入れてくれる領地」
「ひどい扱いを受けていた農民や村人にとっては救いの領地として噂されているぞ」
朔也は思わず苦笑した。
「少し大げさな気もするけど、これもみんなの頑張りのおかげかな」
「いや、大げさではないと思う。」
晴仁は首を振る。
「俺のように、実際に助かった人も多くいる」
「白金領へ行けば生きられるかもしれないって希望を持つものがいてもおかしくないさ」
「そうだね。ありがとう晴仁、とても参考になったよ」
その言葉に朔也は少しだけ表情を引き締めた。
ーーー
その日の夕方。
城へ戻った朔也は評定の間にいた。
宗二、雷堂、陣内、舞、剛も集まっている。
「実は俺も似た話を聞いていた」
陣内が帳面を開いた。
「最近、移住を希望する者が増えている」
「やっぱりか」
宗二が頷く。
「流民受け入れの話が広がったんだろうな」
「働き口を求める者も出てくるはずだ」
朔也は少し驚いた。
「そんなに広まっているの?」
「商人の噂話を甘く見るな」
陣内が笑う。
「良い話も悪い話もあっという間に広がる」
雷堂も腕を組んだ。
「人が増えるのは悪くない」
「だが食料の問題は忘れるなよ」
「もちろん」
朔也は真剣に頷いた。
人が増える。
それは喜ばしいことだ。
だが同時に責任も増える。
守るべき者が増えるということなのだから。
会議も終わりに近づいた頃。
陣内がふと思い出したように口を開いた。
「そういえば面白い話がある」
全員の視線が向く。
「北の街道で旅の武人を見たらしい」
「武人?」
雷堂が反応した。
「かなり腕が立つそうだ」
「どこの領地からの誘いも断って旅を続けているらしい」
「変わった奴だな」
雷堂が笑う。
陣内も頷いた。
「しかも最近、白金領に興味を持っているという話も聞いた」
「俺たちに?」
朔也が首を傾げる。
「さあな」
陣内は肩をすくめた。
「ただの噂かもしれん」
だが宗二は少し考え込んでいるようだった。
宗二の姿を見た雷堂がつぶやいた。
「噂だとしてもなかなかの武人と聞くと気になるな」
「雷堂様、私が噂を調査してみましょうか?」
「茜 —- 助かるが、何かのついでに聞いてくれるくらいで良いぞ」
「お安い御用です。お任せください」
茜が胸をたたいた。
「茜、助かる」
「いえいえ。情報調査は私得意なので、いつでも頼ってください」
宗二も茜に感謝を伝えて、今日の会議は終了した。
ーーー
その夜。
朔也は城壁の上に立っていた。
遠くには村々の灯りが見える。
少しずつ増える仲間。
少しずつ広がる噂。
白金領は確実に変わり始めていた。
「白金領がみんなの希望になっているんだな...」
ふと呟く。
まだ自分は立派な領主ではない。
失敗も多い。
学ぶことばかりだ。
それでも。
誰かが希望を抱いてここへ来てくれる。
それは嬉しいことだった。
夜風が静かに吹き抜ける。
そしてその風は。
新たな出会いを運んでこようとしていた。
面白かった!続きを読んでみたい人はぜひリアクション、コメントよろしくお願いします!
定期的に更新しますので、ぜひブックマークよろしくお願いします!!




