第五十六話「新たな民②」
流民を受け入れてから三日。
城下では早くも様々な声が上がり始めていた。
「本当に大丈夫なのか?」
「あいつらに食わせる飯があるなら俺たちに回してくれ」
「余所者を入れる余裕なんてないだろ」
市場の一角。
領民たちの不満が聞こえてくる。
朔也もそれを理解していた。
感情論だけではない。
現実の問題だ。
食料は不足している。
住む場所も足りない。
復興もまだ終わっていない。
それでも受け入れを決めたのは自分だった。
ーーー
その日の評定。
宗二が報告を行う。
「流民は現在十五名」
「空き家を利用して生活してもらっている」
「仕事も割り振りをし、男たちは農地の復旧と開墾。女たちは炊き出しや衣類の補修をやってもらっている」
「加えて、子どもたちは城下で保護しているのが現状だ。彼らからは特に不満もなく、熱心に仕事に取り組んでもらっている」
朔也は頷いた。
問題なく進んでいるように見える。
しかし
「領民からの不満は増えている」
宗二が続ける。
部屋が静かになった。
「やはりか」
雷堂が腕を組む。
「特に農民たちだ。自分たちも苦しいのに余所者を受け入れる意味が分からないと言っている」
当然の反応だった。
「朔也、ここは流民たちを受け入れた責任としても何とかしていかないとな」
「そうだね。まずは城下に出て、町のみんなの考えを聞いてみるよ」
「それが良い。誰かついてってやれ」
「いや、今回は一人で行かせてほしい」
朔也は雷堂の提案を断り、その場を立った。
「あ、朔也...」
「茜、心配なら後ろから朔也についていこうか」
「いえ、大丈夫です。あの顔を見たら、朔也の好きなようにさせてあげたいと思いました」
「そうか... 茜、お前は本当に良い奥さんになれるぞ。」
「なっ、急に何を言い出すんですか!? 今はそんなこと言う場ではありませんよ、宗二さん」
「はは、なに。そんな関係ない話でもないさ。跡継ぎとか考えるのも我々の仕事だ」
「そうなんですか? でも、舞ちゃんもいますし、私で...」
「...」
朔也がいない場で、勝手に話が進んでいるのであった。
ーーー
評定の場を後に、朔也は宣言通り、城下へ向かった。
市場では早速呼び止められる。
「領主様」
振り向くと農民の男が立っていた。
五十代ほどだろうか。
日に焼けた顔に疲労が見える。
「どうした?」
「流民の件です」
やはりその話だった。
「俺たちは反対です」
男は真っ直ぐ朔也を見た。
「なぜですか?」
「食料です」
即答だった。
「俺たちだって余裕がない」
「今年の冬を越せるかも分からない」
「なのに新しい人間を増やすんですか?」
周囲の者たちも頷いていた。
朔也はしばらく黙った。
正しい意見だ。
間違っていない。
「それでも俺は受け入れたい」
朔也は静かに言った。
「なぜです?」
「俺も昔、追われる側だったからだ」
ざわめきが起きる。
「異形だからじゃない。居場所を失った人を見捨てたくない」
農民たちは黙って聞いている。
「もちろん皆に負担を押し付けるつもりもない」
「彼らには働いてもらう。この領地の一員として」
男は複雑な表情を浮かべた。
納得したわけではない。
だが理解はしたようだった。
「税についても宗二たちと話している。皆が少しでも暮らしやすくなるよう考えていく」
「それなら良かったです。私たちも生活があるので、それでは」
少し安心した様子で男は頭を下げて、去っていった。
その帰り道。
朔也は開墾地へ立ち寄った。
そこでは流民たちが汗を流していた。
慣れない土地。
慣れない道具。
それでも必死に働いている。
その中に金髪の青年の姿があった。
流民の中で唯一の異形。
年齢は朔也よりも少し上だ。
青年は一人で丸太を運んでいた。
大人二人がかりで持つような重さだ。
「すごい力だな」
朔也が声を掛ける。
青年は驚いたように振り返った。
「り、領主様」
「名前は?」
「剛です」
初めて聞く名だった。
「ありがとうございます」
「何が?」
「受け入れてくれて」
剛は少し俯いた。
「今まで行く先々で追い出されました」
「異形だから」
朔也は何も言わなかった。
「だから正直、ここも同じだと思っていました」
剛は苦笑する。
「でも違った」
「私も異形であるし、白金領では何も気にしなくて良いよ。異形というのも、忠範が勝手に見下していただけで、君のように力を持っている者だからさ」
「そうですか... どうして領主様は私も普通の領民と同じ扱いをしてくださるのですか?」
「同じ苦しみを俺も知っているから... 親近感もあるしね」
「今後も皆のために、色々力を貸してほしい」
「もちろんです。受け入れてくださった恩は必ずやお返しいたします」
「期待してるね。」
その夜。
朔也は城壁の上から城下を眺めていた。
まだ反発はある。
問題も多い。
だが少しずつ進んでいる。
そんな気がした。
そして彼はまだ知らない。
今日出会った剛という青年が。
後に白金領を支える重要な存在になることを。
静かな夜風が吹いていた。
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