第五十五話「新たな民①」
翌朝。
朔也は宗二と共に城下の視察を行っていた。
反乱による被害は徐々に落ち着き始めている。
だが問題は山積みだった。
食料。農地。復興。
どれも簡単には解決しない。
そんな時だった。
遠くから慌ただしい足音が聞こえてくる。
門番の一人が駆け込んできた。
息を切らしながら叫ぶ。
「朔也様!」
「大変です!」
「どうした?」
「城門に流民が現れました!」
朔也と宗二が顔を見合わせる。
「流民?」
「はい。十数名ほどです」
「追われてきたと言っています」
宗二の表情が険しくなった。
「案内しろ」
門番は大きく頷いた。
ーーー
城門前。
そこには十数人ほどの集団が座り込んでいた。
男。
女。
老人。
そして子ども。
全員が痩せ細っている。
衣服は汚れ、長旅の疲労が色濃く残っていた。
朔也は足を止める。
集団の中に1人見覚えのある特徴があった。
金色の髪。
赤い瞳。
異形だった。
周囲の兵たちもざわつき始める。
「こんなに大勢?」
「どこから来たんだ」
「異形の者もいるぞ、朔也様にお伝えしないとな」
流民たちは怯えたように身を寄せ合う。
その中から一人の老人が前へ出た。
「お願いです……」
かすれた声だった。
「どうか追い返さないでください」
「事情を聞こう」
朔也は静かに言った。
話によると、彼らは東の領地から逃げてきたらしい。
異形狩りが始まったのだという。
村を焼かれた者。
家族を失った者。
逃亡の途中で仲間を亡くした者もいた。
語られる内容に、その場の空気が重くなる。
「それで白金領まで?」
舞が尋ねる。
老人は頷いた。
「噂を聞いたのです」
「異形の領主がいると」
朔也は目を見開いた。
いつの間にかそんな話が広がっていたらしい。
ーーー
流民たちが別室へ案内された後。
朔也たちは評定の間へ集まった。
最初に口を開いたのは宗二だった。
「はっきり言って、受け入れる余裕は今の白金領にはない」
即答だった。
「食料事情は昨日話した通りで、今のままでも厳しい」
「さらに人数が増えれば困窮する村が出てくるだろうな」
陣内も頷く。
「現実的には難しいな」
誰も反論できなかった。
全員が正しいことを言っている。
だが。
「彼らは『異形の領主』を最後の望みとしてここまで来たんだ。異形の者も1人いたから、戦力や復興に大きく力を貸してくれるかもしれない」
「追い返して、彼らはどうなるのか俺でもわかるよ。みんなはどう思う?」
朔也が尋ねた。
沈黙。
答えは分かっていた。
飢えるか。
死ぬか。
それだけだ。
しばらくして舞が小さく言った。
「子どももいました」
誰も返事をしない。
「まだ小さい子です」
舞は俯いていた。
部屋の空気が重くなる。
雷堂が大きく息を吐いた。
「……厄介だな」
「本当に」
宗二も苦笑する。
誰も見捨てたいわけではない。
だが領民も守らなければならない。
朔也は窓の外を見る。
城下では領民たちが働いている。
復興の途中だ。
余裕などない。
それでも。
ふと昔の自分を思い出した。
異形として追われた日々。
居場所を失った時間。
助けを求めても手を差し伸べてくれる者はいなかった。
もしあの時。
雷堂たちに出会えなかったら。
今ここには立っていない。
「受け入れよう」
「俺は異形として追われた日々から、みんなに助けれもらってここまで来れたんだ。今度は自分の番だ」
静かな声だった。
だが迷いはなかった。
家臣たちが一斉に顔を上げる。
「朔也」
宗二が何か言いかける。
しかし朔也は続けた。
「ただ養うだけじゃないよ。働いてもらい、この領地の一員になってもらうんだ」
沈黙。
やがて。
雷堂が笑った。
「まったく」
「お前らしいな」
「そうだな。ここで受け入れられないならば、忠範を倒した意味もないしな」
「ありがとう、朔也!」
各々が思い思いの顔をして、結論が決まった。
ーーー
その日の夕方。
流民たちは受け入れを知らされた。
泣き崩れる者。
頭を下げ続ける者。
子どもを抱きしめる母親。
様々だった。
流民たちの中で、一人の金髪の青年が震える声を漏らした。
「もう追われなくていいんですか……?」
朔也は静かに頷いた。
「ここはお前たちの敵じゃない」
「...ありがとうございます」
「これから君の力も貸してほしい。落ち着いたら話をさせてくれ」
「はい、必ずやこの御恩をお返しします」
話を終えて、朔也はその光景を再度見つめる。
まだ十数人。
小さな出来事かもしれない。
だが。
この決断が。
後に白金領の未来を大きく変えることになる。
そのことを、今の朔也はまだ知らなかった。
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