第五十三話「民の声 」
翌朝。
朔也は舞と共に城下を歩いていた。
反乱から数日。
街には活気が戻りつつある。
だが、舞から聞いた言葉が頭から離れなかった。
――領民の中で不満の声が出始めている。
「不満の声って具体的にどの程度出ているんだろう」
「当然、一人二人とかではなく何名からも出ているよ」
舞は即答した。
「むしろ、思ったより少ないくらい」
「そうなの?」
「反乱軍に家族や友人を傷つけられた人もいるからね」
朔也は小さく頷いた。
確かにその通りだった。
自分が捕虜たちにやり直す機会を与えたことは後悔していない。
だが、それを受け入れられない人がいることも理解できる。
活気が戻ってきている半面、不満を爆発させてしまう者もいるだろう。
「こういう時は私に任せて。一緒にいこう」
「さすが舞、頼りにしてるよ」
二人は市場へ向かった。
露店の数はまだ少ない。
反乱の影響が色濃く残っている。
そんな中、一人の中年男性が朔也に気づいた。
「……領主様か」
その声に周囲の視線が集まる。
「先日の判断について聞いてもいいですか」
男性は頭を下げることもなく言った。
「もちろん」
朔也は答えた。
「なぜ反乱軍を許したんですか」
周囲が静まり返る。
男性は続けた。
「俺の弟はあいつらに斬られました」
「命は助かりましたが、もう畑仕事はできません」
「なのに、あいつらは生きている」
朔也は言葉を失った。
正論だった。
「……すまない」
「謝ってほしいわけじゃありません」
男性は首を振る。
「ただ納得できないだけです」
「反乱軍全員が自身の意思で戦いに参加していたわけではないことだけ覚えていてほしい。あなたのように、普通の町人や農民が多く参加していた。」
「... わかりました。ただ、反乱軍と私たちが相容れることはないと思います...」
「わかった。わざわざ伝えてくれてありがとう。」
朔也は男性にお礼を告げて、立ち去った。
さらに歩く。
今度は老婆に呼び止められた。
「領主様」
「はい」
「息子が反乱軍に連れて行かれました」
朔也の表情が曇る。
「まだ帰ってきません」
「探している最中です」
「そうですか」
老婆は少し寂しそうに笑った。
「ならお願いします」
その言葉が胸に刺さる。
ーーー
昼頃。
二人は茶屋で休憩していた。
「思ったより厳しいね」
朔也は湯飲みを見つめながら呟く。
「皆、怒っていたけど、やっぱりそうだよね。私から聞き込みする必要もないくらい」
舞は静かに答える。
「反乱は終わったけど、再建しないといけないことがたくさんだ」
朔也は何も言えなかった。
勝てば終わりだと思っていたわけではない。
それでも。
領民たちの言葉は重かった。
その時だった。
茶屋の隅で話していた農民たちの声が聞こえてきた。
「今年は厳しいな」
「ああ」
「戦のせいで収穫量も減る」
「備蓄も減った」
朔也と舞が顔を見合わせる。
「食料の話?」
舞が小さく頷いた。
「実はその話が町中でされているみたい」
「どういうこと?」
「反乱の影響で農作業が止まった期間があるんだよね」
舞の表情が曇る。
「このままだと冬を越せない村が出るかも...」
朔也の顔から血の気が引いた。
「そんなに深刻なの?」
「今年の備蓄は?」
「正確な数字は把握できていないと思う。確認しないとね」
「急いで確認しよう。城に戻ろうか。」
ーーー
城へ戻る道中。
朔也は黙って空を見上げていた。
領民の怒り。
行方不明者。
そして食料不足。
反乱は終わった。
だが問題は終わっていない。
むしろ増えているようにさえ感じる。
「領主って大変だな……」
思わず漏れた本音に、舞が小さく笑った。
「今さら?」
「今さらだよ」
朔也は苦笑する。
だが、その目には決意が宿っていた。
守ると決めた。
だから逃げない。
まずは食料の確認からだ。
そう考えながら、朔也は城への道を歩き続けた。
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