第五十二話「勝利の宴」
反乱終結から二日。
城下にはようやく平穏が戻りつつあった。
戦で傷ついた家屋の修繕。
街道の整備。
負傷者の治療。
やるべきことは山ほどある。
だが、それでも。
「朔也様!」
「反乱軍を倒した英雄だ!」
「乾杯!」
広場では領民たちによるささやかな宴が開かれていた。
酒が振る舞われ、子どもたちが走り回る。
久しぶりの笑顔だった。
朔也は苦笑する。
「英雄なんて柄じゃないんだけどな……」
「そう言うな」
隣で雷堂が酒を飲む。
「皆、不安だったんだ。忠範が死んで、今度は反乱まで起きた」
「だからこそ安心したいんだろう」
朔也は広場を見渡した。
確かに皆の表情は明るい。
だが、その裏に疲労も見える。
今回の戦いでは雷堂の活躍もあり、朔也側の死者は出なかった。
重傷者が2名。
軽傷者が数名。
奇跡的な結果だった。
しかし、だからといって戦の傷が消えるわけではない。
宴の最中、一人の兵が駆け寄ってきた。
「朔也様」
「捕虜の件でございます」
朔也の表情が引き締まる。
「分かった」
宴を後にし、兵舎へ向かった。
ーーー
そこには縄で拘束された反乱兵たちがいた。
その数は三十余名。
主導者ではない。
時貞に従った兵や農民たちだ。
全員が不安そうな顔をしている。
「処刑されるんだろうな……」
「仕方ない……」
「家族には会いたかったな……」
そんな声が聞こえてくる。
朔也はしばらく彼らを見つめた。
そして静かに口を開く。
「お前たちを処刑するつもりはない」
ざわめきが起きる。
「だが無罪でもない」
静寂。
「戦で壊れた家屋の修繕」
「街道整備」
「農地の復旧」
「その全てに従事してもらう」
反乱兵たちは顔を見合わせた。
予想していた言葉ではなかったのだろう。
「働けば飯は出す」
「働けば寝る場所も与える」
「だが逃げれば罪人として扱う」
朔也の声は静かだった。
しかし揺るがない。
「この領地を壊した責任は取ってもらう」
「その代わり、生きる機会は与える」
誰も声を上げなかった。
やがて一人の老人が涙を流した。
「……ありがとう、ございます」
それが始まりだった。
ーーー
その日の夜。
雷堂、宗二、陣内らが集まっていた。
「反乱兵を労働に回す判断は悪くない」
宗二が口を開く。
「人手も足りませんからね」
「だが領民の中には納得しない者もいるだろうが、これから次第だな」
朔也が言う。
陣内も頷いた。
分かっている。
家族を失った者。
傷ついた者。
彼らから見れば甘い処分に映るだろう。
「それでも俺は処刑したくない」
朔也は答えた。
「死んだ人は戻らない。でも生きている人はやり直せる」
静かな沈黙が流れる。
「……らしいな」
雷堂が笑った。
「え?」
「お前らしいってことだ」
その言葉に皆が小さく笑う。
だが舞だけは少し難しい顔をしていた。
「舞、何かある?」
朔也が尋ねる。
舞は少し迷った後、口を開いた。
「領民の中で不満の声が出始めているみたい...」
部屋の空気が変わる。
「『反乱軍を許すのか』『甘すぎるのではないか』、そういった声です」
「なるほどな。これも民の声を聞き入れて変えていくことも領主の仕事だな、朔也」
雷堂は少し笑みを浮かべながら言った。
「はい、でも逃げるつもりはありません 」
と言って、朔也は目を閉じた。
予想していたことだった。
反乱は終わった。
だが人の感情はそう簡単には終わらない。
領主としての本当の戦いは。
ここから始まると朔也は心の中で覚悟を決めた。
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