第五十一話 「残された火種」
時貞が敗れたことで反乱軍の戦意は崩壊した。
武器を捨てる者。
膝をつく者。
逃げ出そうとする者。
だがその全てを、朔也の兵たちが制圧していく。
戦は終わった。
少なくとも今日のところは。
ーーー
「捕らえた者はどうする?」
戦後処理に追われる中、雷堂が尋ねた。
広場には縄で縛られた反乱兵たちが並んでいる。
その数は数十。
忠範の元家臣やその家来たち以外にも、時貞たちに脅され、武器を持った農民や町人もいた。
「反乱を起こしたんだぞ!」
「許すな!」
味方の兵からも声が上がる。
当然だった。
仲間を失った者もいる。
怒りが消えるはずもない。
しかし朔也は黙って捕虜たちを見つめた。
怯える者。
睨みつける者。
泣いている者。
様々だった。
「……反乱を主導した者だけを拘束する」
静かに告げる。
その場がざわついた。
「朔也様!?」
「正気か!」
「また反乱を起こすかもしれんぞ!」
朔也は首を振った。
「戦いたくて戦った者ばかりじゃない」
言葉に詰まる者もいた。
実際、時貞に従うしかなかった者も多い。
「罪は裁く」
「だが必要以上に憎むつもりはない」
領主としての言葉だった。
ーーー
その日の夕刻。
朔也は捕虜となった元家臣の一人と向かい合っていた。
年老いた男だった。
忠範の代から仕えていたという。
「聞きたいことがある」
男は小さく頷く。
「時貞の最後の言葉だ」
「……」
「忠範を変えた人物がいるのか」
男の表情がわずかに強張った。
沈黙。
やがて観念したように口を開く。
「おりました」
朔也の目が細まる。
「誰だ」
「名は存じません」
「だが数年前より忠範様のもとへ使者が来るようになったのです」
「使者?」
「はい」
男は続ける。
「それからでした」
「異形への扱いが厳しくなったのは」
部屋の空気が重くなる。
「忠範様は元々厳しい方でした」
「ですが……あそこまでではなかった」
朔也は黙って聞いていた。
「まるで何かに取り憑かれたようでした」
「『異形は危険だ』『異能は災いを招く』そう口にすることが増えたのです」
「そうか……」
朔也は小さく頷いた。
「話してくれて感謝する。誰か、この方を部屋まで」
元家臣がいなくなった後。
「雷堂さん、この話は本当ですか?」
「すまないが、よくわからないな。俺はあまり内政の場には出ていないんだ。俺からすれば、ずっとおかしかったがな...」
「そうですか...」
二人の会話に舞が入ってきた。
「雷堂様。確かに城内で噂されていましたよ。気づいたら何もなかったかのように誰も口にすることはなくなりましたが... 今思い返すとかなり不自然ですよね。」
「元家臣だけの証言以外にも同じことを思っていた者が場内にもいたのか...」
「そうなんだよね、朔也。詳しい話を聞けばよかったなあ...」
「なるほど……」
「朔也、今日はここまでにしておけ。これ以上考えても今は答えが出ないだろう」
「...そうですね。今日は勝利を祝いましょう」
「ああ、それが良い」
ーーー
話が終わる頃には夜になっていた。
外では復旧作業が続いている。
負傷者の治療。
焼けた建物の確認。
食料の整理。
やるべきことは山ほどあった。
朔也は夜空を見上げる。
反乱は終わった。
だが領地は傷ついている。
そして、
「異形は危険だ、か……」
時貞の言葉が蘇る。
忠範の変化。
謎の使者。
そして『ある御方』。
点と点はまだ繋がらない。
だが確かなことが一つだけあった。
この反乱は終わりではない。
火種はまだ残っている。
そしていつか。
より大きな炎となって自分たちの前に現れるだろう。
朔也は静かに拳を握った。
守るべきものは増えた。
だからこそ、逃げるわけにはいかなかった。
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