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異形の領主 ~追放された俺は《決闘領域》で異形国家を築く~  作者: 葵 直虎
第六章 民とは、変革を背負う礎
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第五十話 「敗者の言葉」

朔也が刀を抜くと同時に、世界が閉じた。

周囲を取り囲んでいた喧騒が遠のいていく。

兵たちの叫び声。

金属のぶつかり合う音。

土煙。

その全てが薄れ、やがて消えた。

残されたのは朔也と時貞だけだった。

決闘領域。

朔也の異能が生み出した、一対一の戦場。

刀を合わせる。

火花が散った。

続けざまに二撃、三撃。

時貞は決して弱くない。

長年戦場に立ち続けてきた武人だ。


「ふん……」

時貞は刀を構えた。

その顔に恐れはない。

いや、覚悟と言うべきか。

朔也は静かに相手を見据えた。

「今ならまだ引ける 」

「馬鹿を申せ」

時貞は吐き捨てる。

「忠範様亡き今、この領地は終わった」

「そう思うならなぜ反乱など起こした」

「決まっている」

時貞の目に狂気にも似た熱が宿る。

「異形に領地を任せるなどあり得ぬからだ」

言い終えるより早く、時貞が踏み込んだ。

鋭い斬撃。

だが朔也は冷静だった。


——《勝機視界》、発動

——視覚化:右肩、赤


領域内では相手の癖も隙も見える。

時貞の肩がわずかに動く。

次に来る軌道が分かる。

(見える)

右足。

踏み込みが僅かに遅い。

右肩。

古傷がある。

息の乱れ。

視線の動き。

全てが見えていた。

時貞が横薙ぎに振るう。

朔也は半歩だけ下がり、その刃を躱した。

そして袈裟斬りを決めた。

鮮血が舞う。


「ぐっ……!」


時貞が後退する。

肩口から血が流れていた。

「終わりだ」

「まだだ!」

時貞は吠えた。


「忠範様は正しかった!」


再び突撃。

しかし焦りが剣に現れている。

朔也はそれを受け流した。

「何が正しい」

「領民を守ることだ!」

「守る?」

朔也の眉がわずかに動く。

「領民を苦しめてもか」

「乱世だ!」

時貞が叫ぶ。

「全てを救える者などおらん!」

「だから切り捨てるのか」

「必要な犠牲だ!」

その瞬間。

朔也の表情から迷いが消えた。

刀が走る。

一閃。

時貞の刀が宙を舞った。

握っていた手ごと力を失い、地面へ落ちる。

勝負は決した。


時貞は膝をついた。

荒い息を吐きながら朔也を睨む。

「……勝ったつもりか」

「勝負はついた」

「違う」

時貞は笑った。

敗者の笑みではない。

どこか哀れむような笑みだった。

「お前は何も知らん」

「何の話だ」

「忠範様は変わられた」

朔也の眉がわずかに動く。

「昔は違った」

「……」

「ある御方と会うまではな」

朔也は黙って続きを待った。

しかし時貞は首を振る。

「いや……今はまだよい」

「何者だ」

「いずれ分かる」

時貞は血に濡れた顔で笑う。

「お前のような存在を決して許さぬ御方だ」

朔也の胸に小さな違和感が残る。

だが問い質す前に。

時貞は力を失い、その場に崩れ落ちた。

意識を失っただけか。

それとも――。

分からない。

その時。

世界が揺らいだ。


——スキル解除。勝者:神谷朔也。


決闘領域が解除される。

戦場の音が一気に戻ってきた。

兵たちの叫び。

歓声。

驚愕。

朔也の姿を見た味方が声を上げる。

「朔也様だ!」

「勝ったぞ!」

歓声が広がる。

反乱軍の兵たちの顔から戦意が失われていく。

だが朔也だけは浮かない顔をしていた。

時貞の最後の言葉が耳に残っている。

ある御方。

忠範を変えた人物。

そして、自分を許さぬ存在。

反乱は終わる。

しかし。

朔也は本能的に感じていた。

これは終わりではない。

もっと大きな何かの始まりなのだと。

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