第四十八話「犬飼派 残党」
「まだ戻らぬ、だと……?」
荒れ寺の本堂で、加納時貞は苛立ちを隠せずにいた。
送り込んだ忍びが、夜半を過ぎても戻らない。
情報を集めるのに多少の時はかかるだろうと高を括っていたが、さすがに遅すぎる。
「もしや……捕らえられたのか」
そう呟くと、残党の男たちも不安げに顔を見合わせた。
「時貞様、いくらなんでも……相手は農民上がりの若造にすぎません。雷堂も一人や二人の忍びを見抜けるはず……」
「馬鹿者!」
怒声が荒れ寺に響いた。
時貞の眼光は鋭く、刀の刃のように仲間を射抜いた。
「雷堂はただの武骨者ではない。奴は白金領随一の剣豪だぞ。奴と出会ってしまったら、並大抵の者なら捕まえられしてまうだろう。たしか、夜目も耳も常人を超えている。……あの化け物に捕まれば、忍びといえど逃れられまい」
場は重苦しい沈黙に包まれた。
時貞の胸中に、焦燥がじわりと広がっていく。
———
一方その頃、砦の広間。
縛り上げられた忍びが、雷堂、宗二の前に引き据えられていた。
「さて……口を割るまで、何度でも聞くぞ」
宗二が腕を組み、低い声で言った。
忍びは唇を固く結び、答えを拒んでいる。
さらに、宗二は一歩前に出ると、氷のような眼差しを向けた。
「……命を惜しまぬ者など、この世にそうはいない。お前も中々やるのはわかるが、俺たち3人相手では逃げることも叶わない。早く、お前の雇い主の居所を言わねば、今ここで——」
宗二の手が刀の柄にかかる。
忍びの額から汗が滴り落ちた。
「……ま、待て……!話す!話すから!」
雷堂が顎で合図すると、忍びは観念したように口を開いた。
「加納時貞……忠範様に仕えていた家臣の一人だ。今は……城下から北の荒れ寺に、残党と共に潜んでいる……」
「加納時貞……やはりそうか。まだ、生き残っていたか」
雷堂の顔に険しい影が走る。
「知っているんですか?」
朔也が問いかけると、雷堂は深くうなずいた。
「あの男は忠範の側近の中でもとりわけ冷酷だった。領民を痛めつけ、女や子どもすら容赦なく税を取り立てた張本人だ。忠範への忠義も厚い一方で、俺はとことん目の敵にされ、幾度もなく邪魔してきた男だ」
雷堂の声には、宿命を思わせる重みがあった。
宗二が静かに言葉を継ぐ。
「潜伏場所が割れた以上、放置はできぬな。再び火種となる前に、芽を摘むべきだ。一旦、皆んなに状況を伝えよう」
———
宗二の口から昨晩起きた出来事が共有された。
朔也は拳を握りしめ、仲間たちに視線を送った。
「……あぁ。俺たちは白金領を立て直そうとしている。今は畑もどんどん整地されてきて、少しずつ作物も育て始めることができてきた。だがらこそ、あの残党たちを放っておけば、また領民が苦しむことになる。必ず討ち果たそう」
「よし!決まりだな」
雷堂の声に、広間の空気が一気に引き締まった。
「今は、ほとんどのものが別の町や村の支援に行っているため、最小人数での夜襲が良いだろう」
「そういえば、陣内さんや蒼牙団、シンや晴仁もいないよね。」
「陣内は、今は久保の町にて、まとめ役として、白金領全体の復興できるように物流などを整えてきてもらっている。他のやつらもその補助や周辺の村の護衛や手伝いをしてもらっているんだ」
舞の問いかけに宗二が答えた。
「そうなんだね。そしたら、誰が行くの?」
「俺が先鋒を務めよう。宗二は残って砦の警備を頼む。朔也、お前は俺の傍に立て。舞と茜は俺たちの支援でついてきてくれ。数名、若いものも連れて行こう」
「分かった、雷堂さん」
「承知した。雷堂よ、誰も欠けないようにな」
「わかりました、雷堂様!」
こうして、加納時貞を討つための決戦の準備が整えられようとしていた。
———
その頃、荒れ寺では未だ帰らぬ忍びを待つ時貞の苛立ちが募っていた。
だがその焦燥が、すでに破滅への道を開いていることを、まだ彼は知る由もなかった。
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