第二十五話 「森を追われし者」
初投稿です。
森の中。
昼下がりの陽光が葉の隙間から差し込む静かな空間に、朔也たちは虎のようなケモノと対峙していた。
怒りも咆哮も収まり、今はただ、互いを見つめている。
「……本当におとなしくなったね」
舞がぽつりと呟く。
「けど、言葉を使わなくても……伝えようとしてる気がする」
朔也が、ケモノと向き合いながら答える。
その表情には、敵意も緊張もない。あるのは、静かな理解の光だけだった。
「まるで……想いが流れ込んでくるみたい」
茜が両手を胸に当てる。
「強い悲しみと怒り……でも、それ以上に、ずっと寂しかった……」
ケモノの瞳が茜に向く。
敵意はない。ただ、じっと、何かを訴えるように。
「森を、追われたのかもな」
朔也が口を開く。
「ほかの動物には負けないだろうから、おそらく人間にすみかを奪われたんだろう。」
ケモノは目を伏せ、やがてゆっくりと頷くように頭を下げた。
「だから、人の里を襲った。奪われた分、取り戻そうとした。違うか?」
応えるように、ケモノが鼻を鳴らす。
その音には、肯定と、そして……後悔のようなものが含まれていた。
「怒るのも、恨むのも……当然だ。でも」
朔也はおろしていた刀を、ゆっくりとそれを鞘に戻す。
「力はで語るより、今は話そう。俺たちが、お前を信じるように……お前も、俺たちを信じてくれ」
沈黙が流れる。
ケモノはしばらくじっと朔也を見つめていたが、やがて再び伏せ、身体を小さく丸めた。
敵意のない、信頼の証。
「それがお前の答えか」
———
「話は変わるけど、獣、獣いうのも嫌だから、名前つけてあげようよ。……なにかないのかな?」
舞が問いかけると、ケモノはわずかに首を傾げた。
「じゃあ……俺たちで、考えてもいいか?」
朔也がそう聞くと、ケモノはまた小さく頷く。
朔也はしばらく考えたあと、静かに言った。
「……“シン”はどうだ?」
「“信じる”って意味?」
茜が優しく尋ねる。
「信頼の“信”。こいつを信じた、俺たちの気持ちと……こいつが、それに応えてくれたことに」
そう言った朔也に、ケモノ──“シン”は、穏やかな瞳を向けた。
その瞳は、先ほどまでの獣のものではなかった。
悲しみを知り、怒りを抱え、それでも誰かと繋がりたいと願う者のものだった。
———
その日の夕方、里の者たちと再び話をし、襲撃の真意が「縄張りの防衛」であったことを説明すると、困惑と動揺はあったものの、大きな争いにはならなかった。
「もう……戦いは終わりにしよう。この獣、シンもすみかを奪われた上でどうしようもなかったんだ。共に、共存の道を探ろう」
朔也のその言葉に、村の長老は深く頷いた。
「そうだな。こうして、おぬしらが面倒を見てくれるようだし、わしらとしてはこれ以上何も咎めはせんよ。おぬしらの旅の道中が……光に満ちたものであるように」
そう言って、長老は一行を送り出した。
———
夜。
焚き火のそばで、朔也、茜、舞、晴仁、そして“シン”が輪になっていた。
「……仲間、増えたね」
茜が小さく笑う。
「心強いよ、シン」
「ふふっ、まさかこんな展開になるとはね。ま、悪くないけど」
舞はケモノの毛を撫でながら、少し疲れたのか落ち着いた声で言った。
「村の外にはこういう出会いもあるんだな。……次は何が待ってるんだろう」
晴仁がぽつりと呟く。
「何があっても、大丈夫さ。俺たちが一緒なら」
朔也の言葉に、皆が頷いた。
夜空には無数の星が瞬いていた。
その下で、焚き火の灯りが、静かに仲間たちの絆を照らし続けていた。
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